重厚に心震わすバッド・ウルブズ「Zombie」、クランベリーズ ドロレスの魂継ぐ


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全米iTunes総合・第1位を獲得(※追記)

90年代オルタナティヴ・ロック・シーンを席巻し、「Linger」、「Dreams」、「Zombie」など数々の名曲を生み出したアイルランドのロックバンド、クランベリーズ(The Cranberries)。その女性ヴォーカリストのドロレス・オリオーダン(Dolores O’Riordan)が先月、1月15日月曜日朝(現地時間)、滞在していた英ロンドンのホテルで急逝。46歳の死に、衝撃と悲しみの声が今もなお世界中から寄せられます。

この日予定していたのは、米メタルバンド、バッド・ウルブズ(Bad Wolves)とのレコーディング・セッション。前日にニューヨークからロンドンに到着した彼女は、クランベリーズの1994年「Zombie」を2018年版にアレンジしたバッド・ウルブズのヘヴィメタル・カバーに、ヴォーカリストとして参加する予定だったといいます。彼女へ捧げるべく、バッド・ウルブズは先月同カバー曲「Zombie」をリリース(ダウンロード版)。先週公開されたパワフルな追悼のミュージック・ビデオには、涙の声と共に、ドロレスの死を悼む声が次々に寄せられます。

現地時間3月10日、米iTunes総合ソングチャートで、自身初の全米第1位を獲得した(※追記)。

北アイルランド紛争のなか、1993年3月20日、ウォリントン市内の商店街の歩行者通りにIRA(アイルランド共和軍)が仕掛けた爆弾により、50人以上の傷者、そして3歳のジョナサン・ボール君(Johnathan Ball)が即死、12歳のティム・パリー君(Tim Parry)は5日後に生命維持装置のスイッチを切る決断が下され、二人の子どもの尊い命が奪われました。

このウォリントン爆弾事件を受け、亡くなった二人の子どものためドロレス・オリオーダンが書いた政治的な反戦歌「Zombie」では、荒廃的でグルーミーな重々しいサウンドのなか「子どもの命がゆっくりと奪われ/その暴力が静寂をもたらす/我々は何なんだ、我々みんながやっていると誤解してないか?」。アイルランドの名のもと、一部の過激派によって奪われていく小さい、大きな命。彼女の前マネージャーAllen Kovacは、当時レコード会社(Island Records)から同曲をリリースしないよう要求されたものの、彼女はレコード会社から提供された100万ドル(約1億1000万円)の小切手を破り、リリースしたことを明かします。「ドロレスの背はとても小さく、傷つきやすい人だったが、決して自分を曲げることはしない人だっだ」(RollingStone)。

息を潜めるバッド・ウルブズのフロントマン、トミー・ベクスト(Tommy Vext)は天を仰ぎ、極限にまで抑えた怒りと悲しみを静謐な空間に響かせ、「でもお前たちにはわかっているだろ/俺じゃない/俺の家族のせいでもない/お前たちの頭の中だ、お前たちは頭の中で、闘っているんだ/戦車と爆弾で」、「お前たちの頭の中で、お前たちの頭の中で、彼らは泣き叫んでいるんだぞ」。

すると静寂を破るようにその迫りくる歌声を爆発させ、「お前たちの頭の中だ!お前たちの頭の中では/ゾンビ(×リフレイン)/お前たちの頭の中に何がいるかって?頭の中に/ゾンビなんだ!(×リフレイン)」。

Zombie

ドロレス・オリオーダンの死因は明らかにされていないものの、地元警察の発表では事件性はないとされている。少なくとも今年4月3日までは公表されない(RollingStone

米映像監督サミュエル・ベイヤー(Samuel Bayer)が手がけたクランベリーズのミュージック・ビデオでは、彼が実際に北アイルランドに赴き現状を撮影。銃を持つ子どもの姿が映し出された同ミュージック・ビデオは、当時英BBCでは放送が禁止されたといいます(BBC)。今回のカバーには、ボン・ジョヴィ(Bon Jovi)ら歴代スターらの名MVを生んだ米映像監督ウェイン・アイシャム(Wayne Isham)を監督に起用。

十字架の下、天使の子どもたちと共に金色に染めたオリジナル映像にオマージュを捧げるミュージック・ビデオでは、黄金の女性と一枚のガラスを介し、その声を届かせようとするほど、互いの姿が見えなくなる映像に。途中には「1-15-18」の文字、ドロレス・オリオーダンの魂を刻みます。

同曲の趣旨に基づいてあえて2018年版というコンセプトのもとに制作された同カバーでは、オリジナルの一部の歌詞に手が加えられ、「それは1916年(イースター蜂起)からずっと変わらぬ古い主題だ」を「それはずっと変わらぬ古い主題だ/2018年においても」に。また「空爆と銃で」の部分を、「爆弾とドローンで」に変更。時代の変遷のなかで、場所を変えて今も多くの子どもたちの命が失われている凄惨な現実に切り込みます。

【※刺激的な映像が含まれます】シリア首都ダマスカス近郊の東グータ地区。2月19日、20日にシリア政府軍が市民の暮らす東グータを集中的に空爆し、市民200人以上の死者を出した。25日にもシリア政府軍が化学兵器を使用したとみられる空爆を行い、3歳の幼い子が窒息死、民間人13人が呼吸困難に陥った。その悲鳴と泣き声は平昌オリンピックの歓喜にかき消された。

昨年11月、ドロレス・オリオーダンは24年前を振り返り、「あの子たちが亡くなった時、私はツアーでイギリスにいたわ。苦しいほど悲しかった。爆弾は至る所に仕掛けられ、誰が死んでもおかしくなかったわ」、「このことを歌うのは辛かったわ」(Team Rock)。

2018

私たちが作った曲のなかで最もアグレッシブな曲だわ」と語る「Zombie」はリリース当時、アメリカのオルタナ・ソング・チャート首位をはじめ、ドイツ、フランス、デンマーク他、世界各国で第1位。憑依的な歌声とその名を世界に広め、世界に響かせたその慟哭は後に多くのアーティストらによってカバー、数々の映画、ドラマのサウンドトラックとしても流れます。「この歌は、人間の人間への残酷さ、そして子どもたちへの残酷さに対する私たちの泣き声だわ」。昨年にはアコースティック・バージョンで蘇るなか、エミネム(Eminem)は最新アルバム『Revival』収録曲「In Your Head」で同曲をサンプルに使用。今春にデビュー・アルバムを控える若きヘヴィメタル・バンド、バッド・ウルブズは、その意思を継ぐように24年前の時代を投影した政治色の強い代表曲のカバーに挑みます。

トミー・ベクストは、「彼女が我々のバージョンを気に入ってくれ、さらに歌ってくれることは、光栄の至りだった」。「この曲はとてもパワフルな歌であり、今もなお我々が直面しているテーマだ、我々は彼女に捧げるべくリリースしたい、そう思ったんだ」(Billboard)。

ドロレス・オリオーダンは彼らのカバーについて関係者に「とっても素晴らしいわ、スタジオに入るのが待ち遠しいわ」と明かしていたといいます(Loudwire)。「我々が歌詞を”2018年”に変更したいと告げた時、彼女は心から受け入れてくれたんだ、なぜなら国は変わっても、我々は今日もまだ同じ闘いを続けているからだ」。「今もなお彼女の歌詞は、政情不安、政治的混乱、そして現代の紛争に屈しないヒューマニティの力強さを映し出している」、「理由は変わったかもしれない、しかし権力と自由の闘いで罪なき尊い命が奪われているんだ」(RollingStone)。

今春リリース予定のデビュー・アルバムの第2弾として同曲のカバーを予定していたバッド・ウルブス。彼らのカバー「Zombie」及び同ミュージック・ビデオの収益は、ドロレスの3人の子どもたちに寄付されます。「政情不安における民間人の犠牲に立ち向かう彼女の歌詞は、四半世紀後、我々が表現すべき同じ感情をとらえている。それこそが、ドロレスが不滅のアーティストであった証だ。そしてそれは永遠に語り継がれていくものだ」。

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