イスラエル歌姫エデン・ゴラン、愛と痛みの壮大バラード「Hurricane」逆風のなかユーロビジョン決勝へ


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「United by Music / 音楽で一つに」を今年のスローガンに、世界37か国の各国代表アーティストらがオリジナル・ソングで頂点を競い合う世界最大の歌コンペティション番組『ユーロビジョン・ソング・コンテスト 2024』(Eurovision Song Contest 2024)が前大会優勝国スウェーデンのマルメで開幕し、昨日開催の〈準決勝2〉で🇮🇱イスラエルが決勝進出を果たした。

イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区南部ラファへの攻撃を事実上開始するなか、スウェーデン警察がデンマークとノルウェーにも援軍を要請し厳戒態勢を敷く第68回ユーロビジョン。イスラエルの初戦となったこの日、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルの軍事作戦とユーロビジョンへの参加に抗議するため、会場から約7キロ離れたマルメの中央広場には大勢の抗議者が集まった。

地元当局の推定によると 10,000人を超えるデモ参加者が集まり、パレスチナの旗を振りながらマルメ市中心部を行進した。この大規模なデモ行進にはスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリも参加した(Greta Thunberg joins pro-Palestine protest outside Eurovision Song Contest – The Telegraph / YouTube)。一方、イスラエルの参加を支持するため約100人の人々が集まった。

ガザで軍事行動を続けるイスラエルに反対する抗議活動が全米各地の大学構内で繰り広げられ、抗議の声が世界的に広がりをみせるなか、大会前からイスラエルの参加をめぐって激しい論争が起こり、イスラエル非難の矛先となって、誹謗中傷や殺害予告を受けているのは🇮🇱イスラエル代表の20歳、シンガーソングライターのエデン・ゴラン(Eden Golan)。

エデン・ゴランへの数々の誹謗中傷のなか大会運営組織のEBU(欧州放送連合)が「アーティストやコンテスト関係者に対するオンラインでのあらゆる形態の虐待、ヘイトスピーチ、ハラスメントには断固として反対します」と異例の声明(EBU)を発表する事態にまで至った。準決勝前日のリハーサルや準決勝ではブーイングが起こる一方、その歌声に歓声が沸き起こった。

Eden Golan is representing Israel at the 68th Eurovision Song Contest — Ran Yehezkel / EBU

ユーロビジョンの参加は非常に大切な使命の一つというエデン・ゴランは、「国を代表し、世界の前で何か大きなことをできて、私の夢が叶った瞬間です」とイスラエル・ハヨム紙で語る(Israel Hayom)。「今年あのステージに立ち参加を示すことは、これまでとは違った、より大きな意味を持つことになります」、「私たちは決勝進出を信じていますし心から成功を願っていますが、参加できただけでも偉業です。」

「このような複雑な年に代表になることは嬉しいとは誰も言えないものですが、光栄に思います。今年のパフォーマンスは例年とはまったく異なり、私を信頼しているというメッセージです。視聴者が私を代表にしてくれて、私を信じてくれました」とエデン・ゴラン。「すべては最善のために起こると私は信じています。そして自分の強さを信じています。人生をかけて準備し、能力を磨き続け、この瞬間への力となりました。」

今大会で最も物議を醸すその哀歌「Hurricane」(ハリケーン)は、愛する人を失った痛み、その葛藤と苦悩、悲嘆に満ちたある一人の女性の心情を永遠の愛を軸に心を揺さぶる歌声で歌うエモーショナルなパワー・バラード。ユーロビジョンの主要なニュースサイトなどの多くは、今年のイスラエルの出場に関する報道を大幅に減らし、同曲には辛辣な批評が寄せられる一方で、人々から多くの感動の声が寄せられ、イギリスのBBCは「今大会最高のバラード」と評価する。

そのミュージック・ビデオは、重力を覆すハリケーンが吹き荒れるなか、愛する者たちが引き裂かれていく姿がコンテンポラリーダンスによって描かれる。胸に銃痕のような穴が空いた白い服のエデン・ゴランは、心痛と苦悩を通じて、ヘブライ語の最後で天を仰ぎ希望を見出す。

政治とユーロビジョンが事実上複雑に絡み合うなか、映像がレイム音楽祭虐殺事件を彷彿とさせるとの声や、「イスラエルの犯罪行為をユーロビジョンでごまかすな」との強い抗議の声、ボイコットを呼びかける声が多数あるなかで、エデン・ゴランの歌声とその歌には感動の声が届く。

「すごい…、なんて歌、なんて歌手だ」、「とてもパワフルで、泣かせる」、「とてもリアルで、意味深く、美しく、そして力強い。すごい、言葉にできない」、「今大会最も美しい歌だ」、「涙が出るほど美しいわ」、「美しくて力強くて心揺さぶられるわ!素晴らしい歌声、素晴らしい表現力、息を呑むような歌詞!」、「この曲を聞くたびに涙が流れ出る」。抗議の声と感動の声が巻き起こる波乱のバラードが今、戦争の本質と音楽の力を訴えかけながら、人々に様々な感情を呼び起こしている。

Eden Golan

Pupil Interview: Singer and Russian pop star Eden Golan / King’s InterHigh

エデン・ゴランは、ソ連生まれのユダヤ人の両親(父親はラトビア系ユダヤ人、母親はウクライナ系ユダヤ人)のもと、イスラエルのクファル・サバ生まれ。6歳の時ロシア・モスクワに移住。9歳の時クリスマス旅行で行ったタイでレストランのロビーで歌った「ジングルベル」をきっかけに、「すごく楽しくって、ヴォーカル・レッスンを受けようと心に決めました」(King’s InterHigh)。「時が経つにつれて本当に楽しかったので、”New Wave Junior’”という歌のコンテストに参加することにしました。オーディションに合格し、ここから歌手としてのキャリアが始まりました」。『New Wave Junior 2014』では彼女はファイナリストとなった。

学校では人と違っていたことでいじめられ、「バスでは、他の子たちが私の席を奪って、”お前の席なんてない、消え失せろ”って。正直なところ学校に良い思い出はありませんでした」(ynetnews)。反ユダヤ主義の差別も受けながらも、歌う喜びは彼女の夢となり、夢が彼女の人生を作り始める。歌の夢を追い続けた少女は、開花させたその才能を磨き続け、ジュニア版ユーロビジョンのロシア代表を決める『Junior Eurovision Song Contest 2015』のファイナリスト、人気歌オーディション番組『Voice Kids』のロシア版『Voice Kids Russia 2018』のファイナリストとなり、さらに2年間ガールズ・グループCosmos Girlsのリード・ヴォーカリストとしてもロシアで活躍。

12年間モスクワで過ごし、ロシアのウクライナ侵攻が始まった2022年、18歳の時にイスラエルに戻った。そして2024年、ユーロビジョンのイスラエル代表を決める歌コンペティション番組『HaKokhav HaBa』(הכוכב הבא)で審査票と視聴者票でいずれも最高得点で優勝し、イスラエル代表となった。2023大会で第3位となったイスラエル代表Noa Kirel(ノア・キレル)のメロディアスでパワフルなダンスナンバー「Unicorn」をバラード調にアレンジ、エデン・ゴランがスペシャル・コラボした「Unicorn 2024」のミュージック・ビデオも公開されている。

誹謗中傷、殺害予告やテロの重大な懸念のなかで、「私はステージ上で最善を尽くすことに集中しています」とエデン・ゴラン。「間違いなく今年はいつも以上に私たちに対する抗議や声が上がると思いますが、私は大会に集中しようとしています。まだ若いかもしれませんが、人生のすべてには代償が伴うことはわかっています。ユーロビジョンは夢でした、そしてこれは国を代表する代償です。 普通の子供時代を過ごせなかったことなど、私の人生には他にも高い代償を払ったことがありましたが、しかしそれがその代償であるなら、私は心からそれを望んでいます。」

Hurricane

「Hurricane」はもともと「October Rain」のタイトルでEBUに申請されたが、タイトルと歌詞が2023年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの越境攻撃を明らかに描いたものとされ、政治的中立性の規定に反し受理されなかった。これに対し、イスラエル公共放送協会(IPBC)とその放送局Kanは当初、内容・歌詞の変更はしないと返答した。イスラエルの参加が危ぶまれるなか、イツハク・ヘルツォグ大統領のKanへの圧力を受け、Kanは同曲を対象曲とするために歌詞の変更を決めた。2018年大会のイスラエル代表ネッタ(Netta Barzilai)の優勝曲「Toy」で知られるStav Beger他、Keren Peles、Avi Ohayonら「October Rain」のソングライターが急遽歌詞を書き直し、エデン・ゴランがレコーディングし直した新たなタイトルの「Hurricane」が完成。その後同曲は受理され、イスラエルはユーロビジョンの参加が認められた。

当時の状況についてエデン・ゴランは「真夜中に私はスタジオに行き、夜遅くまで歌詞を修正しました」、「レコーディング・スタジオに到着後、もう少しだけ歌詞を修正し、午前3時までそこで新曲を収録しました」。ミュージック・ビデオも撮り直すため「そして午前5時までには、新しいミュージック・ビデオのためメイクとヘアメイクをしました。 その日寝たのは25分くらいでした」(ynetnews)とギリギリの調整だったと振り返る。

エデン・ゴランはAFP通信のインタビューで「欧州放送連合がこの曲を承認しなかったときは、少し驚きました」、 「最初のバージョンは政治的なものではなかったと私は思います」。「この曲は、自分自身が抱えている困難、内なる感情を乗り越えようとしている女の子について歌っている曲です」と語る。 「10月7日とは全く関係ないものでした」(THE TIMES OF ISRAEL)。しかしイスラエルでは「Hurricane」は依然としてハマスの攻撃を踏まえたものと解釈されているという。「共に経験した悲劇を通じて、私たちの国民、私たちの国は、これまでとはまったく異なるレベルで、より深い感情のレベルでつながっています」。

エデン・ゴランは「Hurricane」は人それぞれの歌として様々な解釈の余地があるとして、「この曲を聴く人は誰でも、人それぞれの意味で共感することができる歌になっています」。こうした状況の中でも好意的なコメントや評論家の高い評価が数多く寄せられていることについて「それは音楽の魔法であり、美しさです」。 「それ自体が独自の言語であり、まさにそのために私たちがいます。 それは音楽で一つになることです」。

Eden Golan rehearsing Hurricane for Israel at the Second Rehearsal of the Second Semi-Final at Malmö Arena— Sarah Louise Bennett / EBU

テロ厳重警戒のなか先月28日に現地入りした彼女は、厳重な警備が付き添っており、身の安全のためにホテルの部屋から出ないようイスラエルの治安当局から要請を受け、リハーサルや本番、記者会見など以外、イベントの多くを欠席し、ユーロビジョンに臨む。

エデン・ゴランは自身のSNSで「この旅の始まりに、胸がいっぱいです。興奮、期待、少し緊張していますが、最も重要なのは、自分にできる最高のパフォーマンスを披露したいという願いです」。「私たちの国を代表できることを光栄に思い、とても誇りに思います。この曲は私たち、そして故郷にいる人もそうでない人も含めた私たち全員を代表しています。私たちはあなたの帰りを待っています」。

「私には心から感謝している人がたくさんいます。 彼らなしでは辿り着けませんでした。 そしてもちろん皆さんにも――ありがとう、ありがとう、ありがとう。 この数か月間、皆さんからのメッセージと応援は、私にとってとても大切で、前進し続けるために必要なすべての力を私に与えてくれました。 私たちの国と同じようにこの歌は心がこもっており、私はこの歌をステージに注ぎ込むつもりです。皆さん、愛しています、エデン」

準決勝

準決勝。大型のリングを設置したユーロビジョンのステージで、上部が包帯に似た布でデザインされたストーン・カラーのマキシドレスのエデン・ゴランは、同色系のクラシカルな衣装の5人のダンサーによるダンスと共に「Hurricane」を芸術的な演技で表現。美しく力強い歌声、オーディエンスに訴えかける表現力と舞台演出に会場から歓声が沸き起こった。

政治的影響を強く受けるユーロビジョン、視聴者票のみとなる準決勝は、イスラエルへの非難が強まるなか厳しい状況だったが、トップ10に入り決勝進出を決め、非参加国であるアメリカの主要メディアでも、否定的な意味合いも含めてそのニュースが報じられた。

イスラエルへの非難による逆風の中でこれまでオッズで優勝争いに全くの圏外だった「Hurricane」が、準決勝でのエデン・ゴランのライブ・パフォーマンスにより大きな注目が集まり、優勝最有力候補となっている🇭🇷クロアチア代表ベイビー・ラザーニャ(Baby Lasagna)の「Rim Tim Tagi Dim」(確率42%)に次いで、「Hurricane」が第2位まで一気に浮上(確率20%)。「Hurricane」はアメリカのiTunesのソング総合チャートではユーロビジョン2024曲として唯一トップ100入り(第83位)、イギリスのiTunesのソング総合チャートでは自国の代表曲に次ぐ人気曲(第27位)となり、異例の展開を見せている。

決勝を前にエデン・ゴランは自身のSNSで次のようにコメントしている。「ついに決勝を迎えます🇮🇱🫶🏻」、「適切な言葉がまだ見つかりませんが、心の底からありがとう、ありがとう、ありがとう。 ハリケーンに投票し、私たちを信じてくれてありがとうございます。 私はこれからも舞台に上がり、歌い続け、そして私たちがここにいることを皆さんに思い出してもらえたらと思います! 土曜日にお会いしましょう」、「愛してます!」

ユーロビジョン2024の決勝(記事)は日本時間5月12日(日)午前4時から以下の動画でライブ配信される。

出順アーティスト
1🇸🇪 スウェーデンMarcus & MartinusUnforgettable
2🇺🇦 ウクライナalyona alyona & Jerry HeilTeresa & Maria
3🇩🇪 ドイツISAAKAlways On The Run
4🇱🇺 ルクセンブルクTALIFighter
5🇳🇱 オランダJoost KleinEuropapa
6🇮🇱 イスラエルEden GolanHurricane
7🇱🇹 リトアニアSilvester BeltLuktelk
8🇪🇸 スペインNebulossaZORRA
9🇪🇪 エストニア5MIINUST x Puuluup(nendest) narkootikumidest ei tea me (küll) midagi
10🇮🇪 アイルランドBambie ThugDoomsday Blue
11🇱🇻 ラトビアDonsHollow
12🇬🇷 ギリシャMarina SattiZARI
13🇬🇧 イギリスOlly AlexanderDizzy
14🇳🇴 ノルウェーGåteUlveham
15🇮🇹 イタリアAngelina MangoLa Noia
16🇷🇸 セルビアTEYA DORARAMONDA
17🇫🇮 フィンランドWindows95manNo Rules!
18🇵🇹 ポルトガルiolandaGrito
19🇦🇲 アルメニアLADANIVAJako
20🇨🇾 キプロスSilia KapsisLiar
21🇨🇭 スイスNemoThe Code
22🇸🇮 スロベニアRaivenVeronika
23🇭🇷 クロアチアBaby LasagnaRim Tim Tagi Dim
24🇬🇪 ジョージアNutsa BuzaladzeFirefighter
25🇫🇷 フランスSlimaneMon amour
26🇦🇹 オーストリアKaleenWe Will Rave
非参加国のオンライン投票「Rest of the World」(その他世界)のユーロビジョン投票専用サイト。1クレジットカードによる上限1取引で最大20投票でき、1投票ごとに手数料€0.99(約165.5円)、20投票で計€19.8(約3310円)となる。
https://www.esc.vote/

Hurricane
Producer: Stav Beger
Writers: Avi Ohayon , Keren Peles, Stav Beger

(バース1)
Writer of my symphony
私の交響曲の作曲家
Play with me
私と一緒に弾いて
Look into my eyes and see
瞳を覗いて見て
People walk away but never say goodbye
人々は去っていくが、決して別れを告げない
Someone stole the moon tonight
誰かが今宵の月を盗み
Took my light
私の光を奪った
Everything is black and white
全ては黒か白
Who’s the fool who told you boys don’t cry
男の子は泣かないなんて誰が言ったの?

(プリ・コーラス)
Hours and hours, empowers
何時間もかけて、力づける
Life is no game but it’s ours
人生はゲームではなく、それは私たちのもの
While, the time goes wild
なのに時は波乱に満ちていく

(コーラス)
Everyday I’m losing my mind
日に日に正気を失っていく
Holding on in this mysterious ride
この不思議な乗り物にしがみつきながら
Dancing in the storm
嵐の中で踊る
I got nothing to hide
隠せるものなんて何もない
Take it all and leave the world behind
何もかも飲み込んで、立ち去っていく
Baby promise me you’ll hold me again
ベイビー、もう一度抱きしめると約束して
I’m still broken from this hurricane
まだこのハリケーンから立ち直れない
This hurricane
このハリケーンから

(バース2)
Living in a fantasy, ecstasy
幻想とエクスタシーの中で生きる
Everything is meant to be
全てことには意味がある
We shall pass but love will never die
命は永遠じゃない、でも愛は不滅

(プリ・コーラス)
Hours and hours, empowers
何時間もかけて、力づける
Life is no game but it’s ours
人生はゲームではなく、それは私たちのもの
While, the time goes wild
なのに時は波乱に満ちていく

(コーラス)
Everyday I’m losing my mind
日に日に正気を失っていく
Holding on in this mysterious ride
この不思議な乗り物にしがみつきながら
Dancing in the storm
嵐の中で踊る
I got nothing to hide
隠せるものなんて何もない
Take it all and leave the world behind
何もかも飲み込んで、立ち去っていく
Baby promise me you’ll hold me again
ベイビー、もう一度抱きしめると約束して
I’m still broken from this hurricane
私は傷ついたまま、このハリケーンから
This hurricane
このハリケーンから

(アウトロ)
Lo tzarich milim gdolot
大げさな言葉はいらない
Rak tfilot
祈りだけ
Afilu eem kashe lirrot
それは目には見えなくても
Tamid ata masheer li or echad katan
あなたはいつも一条の光を残す

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