12歳カザフスタン少女ダネリヤ、世界の頂・準決勝で巨壁に刻むピンク「What About Us」


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CBS『ザ・ワールズ・ベスト』2019最終放送回

優雅な天山山脈を望む美しい街並みのカザフスタン南の都アルマトイ。遊牧民文化とアジア、西洋、ロシアの文化が混在し歴史と伝統、モダンが共存する自然豊かな街で育つ少女ダネリヤ・トュレショヴァ(Daneliya Tuleshova / Данэлия Тулешова)は、家ではハムスターを可愛がり育てみんなと同じように学校に通う12歳。しかし街の通りに響くその歌声は時に陰鬱な東欧の憂いを帯び、時に豊潤な香りを漂わせ、時に心の傷を埋め人々を繋ぎ、時にダイナミックに華やかな輝きを放ち、中央アジアからヨーロッパそして今アメリカの人々を魅了します。

世界各国から様々な非凡な才能が集まりその頂を決する米CBS新番組世界タレント頂上決戦『ザ・ワールズ・ベスト』(原題:The World’s Best)シーズン1の最終回が現地時間3月13日に放送。10歳の頃挑戦したウクライナ版『ザ・ヴォイス・キッズ』(The Voice Kids)シーズン4(2017年)で外国人として史上初の優勝(記事)を果たしたことをきっかけに同番組に招かれたというダネリヤ。英語もあまりわからず海を渡り挑んだアメリカ初舞台に大緊張で足のガクガクがとまらなかったという一際小柄な少女は、アメリカを感動に包む美しく力強い歌声で第1ラウンド、バトル・ラウンドを通過。カザフスタンの小さな至宝の活躍を母国のメディアも熱く見守るなか、途中涙を見せながらステージを重ねるごとに成長し勝ち上がってきたダネリヤはこの日ピンク(P!nk)の「What About Us」でセミファイナルの舞台に挑みました。

「私たちはサーチライト、暗闇の中を見ることができる/私たちは何十億もの美しきハート」、美しく響かせる序盤から次第に力強くなる拍動のサウンドにのせ胸に迫るパワフルな歌声で愛と信頼、結束と団結を歌い、感嘆の審査員ドリュー・バリモアは終始うっとり。サイモン・コーウェル的なポジションの審査員ルポールは「彼女の声の豊かさとその力強さといったらもう…、その始まりを目撃できて私はとても恵まれている、将来私がそこにいたと言える、ダネリヤがスーパースターになった瞬間にそこにいたのだと」。

セミファイナルとなるチャンピオン・ラウンド(Champion Rounds)ではセミファイナリスト全12組が4つのグループに分けられ、ダネリヤは「ソロ・ミュージック」グループでインドの「ミニ・マエストロ」こと天才ピアニスト13歳リディアン(Lydian Nadhaswaram)、そして「6オクターブの男」ことカザフスタン24歳歌手ディマシュ・クダイベルゲン(Dimash Kudaibergen)と対戦し1組のみ決勝進出。

第1ラウンドでディマシュは仏作曲家ミシェル・ベルジェ(Michel Berger)とカナダのリュック・プラモンドン(Luc Plamondon)作詞によるフランス語の1978年オペラ・ロック曲「SOS d’un terrien en détresse」をカバー。彼の代表的なカバーとして知られる。

ダネリヤ、リディアンに続いて登場したディマシュはアメリカの心を奪うドラマティックな歌声でララ・ファビアン(Lara Fabian)の「Adagio」を熱唱(動画)。ディマシュは中国の人気歌手コンテスト番組『歌手2017』で第2位の実力者、中国のMTV音楽アワードをはじめ数々の音楽賞を受賞する他、ロンドンでソロ・コンサートを行うなど世界中にファンを持つカザフのスターで『ザ・ワールズ・ベスト』では一貫して優勝最有力候補。しかし歌を終えたディマシュは子どもたちのために道を残したいと語り自ら辞退を申し出て会場は一時騒然。反対する審査員フェイス・ヒルにカザフスタンのエキスパートは国の文化であると擁護。審査員ルポールは怒りをあらわにし「番組に対して無礼だ」、「ここに来た時にこうなることはわかっていたでしょ」。ディマシュの意思は固くステージをあとにしました。

国による文化の違いが浮き彫りになった『ザ・ワールズ・ベスト』、ほぼ見えていた賞金約1.1億円(100万ドル)を自ら手放し契約責任を問われかねない決断をした彼の真意とは。番組では放送されていないもののディマシュとダネリヤは以前から親しい友だちで、ディマシュはダネリヤを妹のように可愛がり、一方ダネリヤはディマシュを兄のように慕うと同時に歌手として深い憧れを抱く特別な関係。ダネリヤは学校の勉強と宿題に追われる日々でこれまでヴォーカル・レッスンは土日のみ受けていたところ、ディマシュが毎日やっていると知り「ウソ!?私もできるのかな?」と昨年の夏休みには毎日ヴォーカル・レッスンに挑戦、今年も絶対やりたいと意欲をみせます。『ザ・ワールズ・ベスト』の収録では固い守秘義務のもとダネリヤ自身も誰と戦っているのかわからない状態だったといい、楽屋や廊下でたまたま会ったりした時に出場者を知る程度で、お互い出場していると知った時はかなり驚いたといいます。ダネリヤを思っての決断だったのでは、そんな声も寄せられます。

ダネリヤとリディアンの戦いとなったステージで、既に採点されロックされていた審査員のスコアが開示されドリュー・バリモア(Drew Barrymore)48点、ルポール(RuPaul)48点、フェイス・ヒル(Faith Hill)47点、その結果アメリカ審査員のスコア(平均値)は48点。一方リディアンはドリュー・バリモア44点、ルポール40点、フェイス・ヒル47点で44点。アメリカ審査員スコアでリードしたダネリヤ。ディマシュ辞退のハプニングを経て「世界の壁」(Wall of the World)と呼ばれる世界各国から集められた各専門分野のエキスパート50人が各々どちらか一方に1点投票。「世界の壁」50人がほぼリディアンに投票した結果、ダネリヤ55点、リディアン87点でリディアンが圧勝し、ダネリヤは涙の準決勝敗退。ダネリヤは直後のバックステージ・インタビューで「言葉が出なくって、いろんな感情でいっぱいいっぱいで…。でも彼の勝利をとても幸せに思ってます」。

The World’s Best / CBS

この日4組による決勝戦で、10を超える楽器を演奏できるというリディアンはベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光ソナタ」と高速連打ドラムによる壮大な協奏、そして2台のピアノでベートーヴェンの「エリーゼのために」(Für Elise)とショパン「Etude」を演奏(動画)するなど神童と呼ばれる多彩な演奏で圧倒し見事優勝を果たしました。

先月のバトル・ラウンド(現地時間2月20日放送)では特に緊張し震えていたというダネリヤ、大人でも難しい曲とされるデミ・ロヴァート(Demi Lovato)「Stone Cold」の複雑な情感と冷たい床に横たわる瀕死の痛みを強めのブレス音を出しながらエモーショナルに歌い上げ、ルポールは「今日私はチャイルド・スーパースターの誕生に立ち会ったように感じる。本当に美しい」と投げキス。ドリュー・バリモアは「私たちは世界で成功する人の誕生を目撃したように感じるわ」、フェイス・ヒルは「あなたの声の低域はとても成熟していて力強く、地に足がついているよう。あなたには神から贈られたギフトがある。あなたの羽ばたく姿を見るのが待ち遠しいわ」。第1ラウンドではダネリヤはアンドラ・デイ(Andra Day)による苦難に射し込む愛と希望の歌「Rise Up」を披露し感極まるドリュー・バリモアは「感動で涙が溢れたわ」(記事)。

同番組の収録は情報筋によると2018年10月頃に行われ、ダネリヤは1ヶ月間ロサンゼルスに滞在し撮影したといいます。奇しくも「What About Us」で巨大な”壁”に阻まれることとなったダネリヤ、先月(2019年2月)母国でのインタビューで普段の学校生活に戻っているといいます。ダネリヤが住む旧首都アルマトイは、カザフスタンのグランドキャニオンと呼ばれる荒々しい巨大な渓谷チャリンキャニオン、宝石のようなエメラルドグリーンの神秘的なコルサイ湖、そして雪冠のアラタウ山脈から流れる雪解け水が生む豊かな自然に囲まれます。

カザフスタン旧首都アルマトイ(アルマティ)。ヨーロッパ風の洗練された景観が広がる。かつてはシルクロードの要衝の地として栄え数々の遺跡を残す、カザフスタン最大都市

「私の普段の生活は全くみんなと同じです」とダネリヤ、毎日朝と夕方に歌の練習をしているといい「朝起きたら顔を洗って、それから歌の練習」、「それから数学とロシア語を習いに個人指導の先生のところに行って」、「帰ってきたら食事をとって、学校の準備して」、「学校で友だちと一緒にいると楽しいわ、私たちの学校はとても素敵よ」、「学校から帰ってきたら食事をとって宿題して、寝ます」。昔は体操をしていたというダネリヤ、「でも怪我をしてできなくなっちゃった。今は回復して毎晩開脚の練習」、「アァァァって最高に痛いの。みんな綺麗に180度開脚するのに私だけこんな感じで、あ゙ぁぁぁぁ!ってなってる」

「あなたは打ち砕かれ、疲れ切る/メリーゴーラウンドの人生を生きることに/そして闘う自分を見つけることができない/でも私はあなたの中にそれが見える、共に乗り越えよう/そして山々を動かそう/私たちは乗り越えるのよ/そして山々を動かそう」、「そして私は立ち上がる/立ち上がるわ、太陽のように/立ち上がる/私は立ち上がるわ、どんなに辛くても/立ち上がるわ/そして私は何度も繰り返す、何千回も」、「あなたのために/あなたのために/あなたのために/あなたのために」

『ザ・ワールズ・ベスト』ではダネリヤの母親が付き添いサポート、そして「パパはたとえどんなことがあっても私たち(弟、妹)に進んで手を差し伸べてくれます。パパの仕草を見ているとどれほど私たちを愛してくれているかわかる」。インタビュアーが「あなたを見ていると、ご両親の思いが伝わっているのね」と流れよく返すとダネリヤは「ごめんなさい…」両手で顔を覆い声を震わせ涙し、一旦中断。のちにダネリヤはSNSでこう振り返ります、「人生でたぶん一番エモーショナルなインタビュー😭」そんな彼女はその全てを歌に注ぎ人々の深いところまでその感情とメッセージを届けます。「目標があって障害にぶつかったら、あっこれは運命が道を戻れと言っているんだなって思うものです。でも目標に進むなかで神様が困難を与える時は、それは神様があなたを助けたいからです、次にあなたを待ち受けるもののためにあなたを強くしたいと思っているからです」。「もしもあなたが壁や困難にぶつかっている時は戻ったりしないで。ただ前に進むの、たとえどんなことがあっても。そして苦難を乗り越え、前に進んでいく」。

2018年『ジュニア・ユーロビジョン・ソング・コンテスト』カザフスタン代表曲「Òzińe Sen」。信じることの大切さを歌う(記事)。国民から最も多くの支持を集め初参加国カザフスタン代表を務めた。ダネリヤが作詞に加わる

「私たちは何十億もの美しきハート」、敗退でアメリカでの戦いを終えたダネリヤにアメリカからはまた戻ってきて歌って欲しい、そう願う数多くの声が寄せられます。自身のSNSを更新したダネリヤはディマシュ、TV関係者に感謝を述べた上で世界中のファンへ「番組の間私を応援してくれた皆さん、そしてこれまでずっと私を応援し続けてくれている皆さんにありがとう」。ダネリヤの旅はまだ始まったばかり。かつてシルクロードの要衝として東と西を結んだアルマトイ、その地には今日も夢に向かい何千回も立ち上がる一人の少女の歌声が流れます。

 
 

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