マルティナ・マクブライド(Martina McBride)「Concrete Angel」


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最も悲しい歌として外国人の方に選ばれることの多いこの曲「Concrete Angel」は、7歳の少女がアルコール中毒の母親から虐待を受けながらも誰にも助けてもらえることのなかった痛烈な幼児虐待をテーマにした実話に基づくバラードソング。2002年に米カントリー界のセリーヌ・ディオン的存在マルティナ・マクブライド(Martina McBride)のベストアルバム『Greatest Hits』からシングルリリース化され、米ビルボードカントリーシングル部門で第5位を記録する等全米で大きく反響を呼んだ曲となっています。

“Concrete Angel”

(バース1)
少女は自分でつめたお弁当を持って学校に歩いていく
昨日と同じ洋服を着ながら抱えている彼女の秘密を
誰も知る由もなく
少女はリネンとレースでその打撲傷を隠していた

彼女の先生はそれに疑いを持ちながらも、彼女にそれを聞くことはない
秘密の嵐のその苦しみに耐えながらも
仮面の下のその痛みは見るに耐えなかった
少女は自分がこの世に生まれてこなかったらなと願うこともあった

(コーラス)
風と雨を全身で受けながら
彼女は石のように懸命に耐えていた
この世で彼女はそれを克服することはできなかったが、
少女の夢は彼女に翼を与えた
そして少女は愛される場所へと羽ばたいていった
天使になった少女よ

(バース2)
真夜中に誰かが泣いている
近所はそれを聞いていたが、誰も明かりをつけようとはしなかった
か弱い魂は運命の手に捕らえられた
朝が来るときには手遅れになるだろう

(コーラス)
風と雨を全身で受けながら
彼女は石のように懸命に耐えていた
この世で彼女はそれを克服することはできなかったが、
少女の夢は彼女に翼を与えた
そして少女は愛される場所へと羽ばたいていった
天使になった少女よ

(ブリッジ)
陽のあたらない場所に彫像が立っている
空を仰ぐ天使になった少女
磨かれた石に刻まれた彼女の名前
世界に忘れ去られた傷ついた心

(コーラス)
風と雨を全身で受けながら
彼女は石のように懸命に耐えていた
この世で彼女はそれを克服することはできなかったが、
少女の夢は彼女に翼を与えた
そして少女は愛される場所へと羽ばたいていった
天使になった少女よ

performed by Martina McBride
co-produced by Martina McBride and Paul Worley
Composed by Rob Crosby and Stephanie Bentley
Released November 25, 2002
RCA Records

胸が苦しくなる歌詞に思わず目頭が熱くなりますが、マルティナ・マクブライド自身も制作に携わったこの楽曲は、幼児虐待により実の姪を亡くしたマルティナ自身の思いがこめられた曲になっています。

青く冷たいマルティナ・マクブライドの目が全てを物語っている気がしますが、こうした現実が今も起きているということを思うと、何ともいえぬ気持ちになります。

“Concrete Angel”
3 Meanings of the “Concrete Angel”

この曲の題名でありコーラスの最後のリリックにもなっている”Concrete Angel“というのはこの曲での造語になりますが、コンクリートの天使と聞いて最初に思い浮かべるのは、欧米の墓地でよく目にする天使の彫像ではないでしょうか。

それは少女の死後の歌詞”A statue stands in a shaded place”(「陽のあたらない場所に彫像が立っている」)という箇所からも伺わせますが、”Nobody knows what she’s holdin’ back wearin’ the same dress she wore yesterday”(「昨日と同じ洋服を着ながら抱えている彼女の秘密を誰も知る由もなく」)や”It’s hard to see the pain behind the mask bearing the burden of a secret storm”(「秘密の嵐のその苦しみに耐えながらも仮面の下のその痛みは見るに耐えなかった」)にあるように、人知れず命を落とした「」の強烈なイメージをリスナーの脳裏に焼き付けるものであります。

しかし一方で、コーラスの歌詞”Through the wind and the rain. She stands hard as a stone.”(「風と雨を全身で受けながら、彼女は石のように懸命に耐えていた」)にあるように、生前、虐待を受けながらも一人力強く耐えていた姿を描くもので、それは同時に「」を意味するものでもあります。過酷な虐待の現状の中で耐え凌ぐ姿の比喩として、風雨の中で負けずと強く立ち尽くす石を用いていますが、やがて少女に死が訪れると、石のように生きた彼女に翼が与えられ、”Concrete Angel”として、愛される場所へ羽ばたいていくことになります。

“Concrete Angel”はそんな困難を強く耐え凌いでいた「生」運命に逆らえず訪れた「死」、そして「生」から「死」へと天国に羽ばたく姿のメタファーでもあるといえます。

そしてさらに”Concrete Angel”にはもう一つの大切な意味があるのかもしれません。

英語を翻訳する際困難なのがその多義性ですが、”concrete”は「コンクリート製の」という意味以外に、形容詞として用いられる場合には、abstractの反義語として「1. 具体的な、有形の,具象の」や「2. 現実の,実際の、明確な」という意味を持ちます。”concrete”をそのように解する場合、”Concrete Angel”は「有形の天使」、「具象化された天使」、「現実の天使」という意味になり、それは霊的抽象的存在を超えた具現的実体ある存在として意味することになります。

天使という存在は、宗教によってもその捉えかたは多種多様ですが、霊的抽象的存在を超えてあえて具現的実体ある存在として表現している背景には、”she flies to a place where she’s loved”(「そして少女は愛される場所へと羽ばたいていった」)とあるように、天使になった少女が愛されるその場所で現実に幸せに暮らしていてほしいという強い願いがこめられているのではないでしょうか。

PVで一人孤独な少女の傍らで元気付けていた少年は同じく幼児虐待で命を落としていた子であると最後にわかりますが、天使になった仲間たちと共に愛されるその場所で少女が幸せに暮らしていけることを願ってやみません。

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