涙溢れるケリー・ピックラー(Kellie Pickler)『I Wonder』


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この動画は、『アメリカン・アイドル』出身者で米ノースカロライナ州の小さな田舎町出身のカントリー・シンガーソングライター、ケリー・ピックラー(Kellie Pickler)が、2007年11月に開催された米カントリー主要音楽祭CMA賞で曲「I Wonder」を涙ながら披露した映像です。

この曲「I Wonder」は、ケリー・ピックラー自身が作詞作曲を手がけた楽曲で、ケリーのもとを行き先を告げず2歳の時に去った母親への想いを綴った楽曲。ケリーは2歳の時に母親に捨てられ、アルコール薬物中毒者でもあった父親は服役という環境の中で、親権者の祖父母の元で弟エリック(Eric)共に育ったのですが、この楽曲にはそんな悲しみと憤りと愛が交錯する複雑な母親への想い、深い心の溝を描いたものになっています。

ビデオの最後で泣いているの男の子はそのケリーの弟エリックです。切なすぎる歌詞に思わず胸を打たれてしまいます。以下日本語訳した歌詞です。ご参考までに!

“I WONDER”
Written by Kellie Pickler, Chris Lindsey, Aimee Mayo, Karyn Rochelle

(バース1)
ときどきあなたの事を思うの
どこかであなたが私のことを思ってくれているかなって
あなたの小さな娘が大きくなった女性を私だって、それすらわかってくれるかなって

なぜなら鏡を見て見える全ては
私を見つめ返しているあなたのブラウン色の目だけだから
それはあなたが今まで私に与えてくれた唯一のもの

(コーラス)
Oh、カリフォルニアでは天気がいいって聞いたわ
見渡す限り澄んだ青空が広がってるって
もしもあなたがカロライナの家に戻ってきてくれることがあるのなら
あなたは私に何を言ってくれるのだろう

(バース2)
私はどれだけそれがフェアーじゃないかって思う
普通の母親がするように、髪を編んでくれるためにいてくれなかったこと
普通の母親がするように、応援してくれるためにそばにいてくれなかったこと
普通の母親がするように、高校のプロムのドレスの着付けに一緒にいてくれなかったこと

私があなたのこと必要じゃなかったとでも思うの?
ここで私の手を握り締めて、私の涙を乾かしてくれるために、あなたが必要じゃなかったとでも思うの?
今までずっと一度も私のこと寂しく思ってくれなかったの?

(コーラス)
Oh、カリフォルニアでは天気がいいって聞いたわ
見渡す限り澄んだ青空が広がってるって
もしもあなたがカロライナの家に戻ってきてくれることがあるのなら
あなたは私に何を言ってくれるのだろう

(ブリッジ)
赦し、それは言葉では簡単だけど
でも傷ついているとき、それはとても難しい

(コーラス)
Oh、カリフォルニアでは天気がいいって聞いたわ
もしもあなたが私のことを心配してくれているときのために
今日から私はもうカロライナにいないの
あなたの小さな女の子は旅立つの、あなたの小さな女の子は旅立つの
あなたの小さな女の子は、テネシーへと旅立つの

途中から必死で涙をこらえているケリーですが、“Oh, I hear the weather’s nice in California,”では涙が頬を伝い、声が震えながらも最後には歌にできず、言葉で「私はテネシーにいるわ」と終えています。

父親は家庭内暴力を振るうアルコール薬物中毒者で(後に傷害事件で服役)、18歳で彼女を産んだ母親は行き先を告げず娘を祖父母に託し姿を消すなど、苛酷な環境の中で育った彼女の見えない深い心の傷がひしひしと伝わってくる曲だけに、ものすごく胸があつくなってしまいます。

楽曲「I Wonder」における州の名前の持つ意味
Meanings of California, Carolina and Tennessee

カリフォルニア州、ノースカロライナ州、テネシー州

憤り、悲しみ、そしてかすかな愛への期待、しかし赦すことの難しさ、どれとも言えない複雑な感情が交錯する姿が巧みに描かれていますが、この歌詞の中で特に興味深いのが、コーラスで「カリフォルニア」(California)、(ノース)「カロライナ」(Carolina)を、そして最後に「テネシー」(Tennessee)で終えているように、州の名前を楽曲の中心的役割においている点です。

それは単に場所を意味するにとどまらず、彼女にはもっと深い意味がありそうです。

ケリー・ピックラーの生い立ち on People

ケリー・ピックラーはこの曲が収録されているアルバムのタイトル『Small Town Girl』にあるように、ノースカロライナ州のアルベマールという小さな小さな田舎町の祖父母の家で弟エリックと共に育っています。2004年アルベマールのニュー・ロンドンにあるノース・スタンリー高校を卒業、ウェイトレスとして生計を立てる傍ら、17歳のとき、ミス・アメリカに参加し、「ミス・スタンリー・カントリー」(※スタンリー・カントリーはノースカロライナ州のアルベマールの郡庁所在地)で優勝、その後のミス・ノースカロライナで落選後は、パラリーガルの勉強に集中。

2005年米人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』シーズン5のオーディションに参加後、同番組辛口審査員サイモン・コーウェル(Simon Cowell)から前シーズン優勝者キャリー・アンダーウッド(Carrie Underwood)よりも高い評価を得るも、ポップ系ミュージックに苦戦し、6位で終えます。

『アメリカン・アイドル』出場後、ケリー・ピックラーは楽曲の制作のため、米カントリーの音楽拠点ナッシュビルに移り住んでおり、『I Wonder』の最後にある「テネシー」はそれを意味するものです。

コーラスでは”I hear the weather’s nice in California”(カリフォルニアでは天気がいいって聞いたわ)とケリーは「カリフォルニア」を思い浮かべています。楽曲制作当時、ケリーは行方のわからない母親と再会していません。ですので、なぜカリフォルニアを用いたのか彼女の経歴からは明らかではありませんが、ノースカロライナ州、テネシー州はいずれもアメリカ東部の州ですが、カリフォルニア州はそこから西へ最も遠いアメリカ西部に位置しておりますので、ここでいう「カリフォルニア」とは、母親との心理的距離感を表現したものではないかと思います。

それは” I look in the mirror and all I see, Are your brown eyes looking back at me. They’re the only thing you ever gave to me at all”のリリックにもあるように、母親との接点が思い出の中にあるのではなく、”your brown eyes”、遺伝的要素のみであるという表現からも伺えます。

幼い頃髪を編んでくれたり、辛いときそばにいてくれたり、女の子の最大のイベントであるプロムでドレスの着付けを手伝ってくれたり、何でもない母親がただ普通にしてくれることを経験することのなかった彼女ですが、小さな田舎町「カロライナ」からナッシュビル「テネシー」へ旅立つとき、一番そばにいてほしいのは、他でもない母親の存在ではないでしょうか。

憤りや悲しみ、心の傷を表現しながらも、人生の旅立ちを迎えた今、どこかで自分のことを思っていてくれているかもしれないかすかな希望が”just in case you’re wondering about me. From now on I won’t be in Carolina. Your little girl is off, Your little girl is off, Your little girl is off to Tennessee.”(もしもあなたが私のことを心配してくれているときのために、今日から私はもうカロライナにいないの。あなたの小さな女の子は旅立つの、あなたの小さな女の子は旅立つの、あなたの小さな女の子は、テネシーへと旅立つの)に表現されています。

“just in case”(念のため)と表現するところがまたこの曲の魅力ではありますが、ケリー・ピックラーの切ない想いに胸を打たれます。

ケリー・ピックラーのメッセージ
Kellie Pickler’s Messages

自身を捨てた母親への思いを歌った『I Wonder』はケリー・ピックラーにとって非常にプライベートな楽曲といえます。しかし彼女はこの曲を通して伝えたいことは別にあるようです。

“I had a man come up to me the other day, and he said that was his favorite song on the album, because he was adopted, so he never met his real parents”, “My hope is for this song to be a testament for somebody who might be going through an experience like this and know you’re not alone,” she says. “Just keep on believing and following your dream and the sky’s the limit. If I can make it, anyone can.”

「先日ある人が私のところに来て、彼はこのアルバムの中で一番好きな曲であると話してくれたの。彼は養子で、実の両親には一度も会ったことがないからって」…「私の願いは私と同じような経験している誰かにとってこの曲がよりどころになってくれること、あなたは決して一人じゃないってわかってもらえることだわ。」「信じていることを曲げずに、あなたの夢に向かって走り続けて。可能性は無限よ。もし私にできるのなら、あなたならきっとできるわ」

(引用元)「Kellie Pickler Reaches Out with “I Wonder” 」on GAC – GREAT AMERICAN COUNTRY

『アメリカン・アイドル』から米カントリー界の未来を担う期待のアーティストとして一躍スターダムの道を駆け上がったケリー・ピックラーですが、彼女はその成功を献身的な慈善活動を行うことで活かしているようです。聖ジュード小児研究病院(St. Jude Children’s Research Hospital)の資金援助、継続的な訪問による子供の支援を行う他、彼女のルーツでもある孫を育てる祖父母の家庭を支援するために、米高齢者団体AAPR等、積極的に募金活動に参加しチャリティイベントや啓蒙活動を行っています。

収入源が限られている祖父母による子育てにおいては、それがいかに金銭的困難を伴うものであるかはあまり知られていません。またジェネレーションギャップも大きな問題の一つといえます。しかしケリーが、祖父母のもと、非伝統的家庭環境の中で育った子供のロール・モデルと呼ばれる背景には、そうした困難を乗り越え、祖父母と娘の固い絆、深い理解が築き上げられていたことにあります。

苦労は勿論あったと話すケリー、しかし何よりも大切にしていたことがあったようです。

“I think that’s the most important thing—to know that you can talk about anything,” she says with certainty. “I knew I could go to my grandma with anything in the world. Whether I’d done something bad or good or whatever, I could go and tell her. I think it’s about having that friendship.”

「最も大切なことは、どんなことでも話すことができるということ。この人生でどんなこともおばあちゃんに話せるってわかってたわ。それが何か悪いことをしたこととか、何か良いことをしたこととか関係なく、どんなことでも彼女のところにいって話すことができたの。それが”フレンドシップ”を持つということだと思うの。」

(引用元)“Country music star Kellie Pickler brings grandparenting center stage” on AARP

最愛の祖母に宛てた曲「My Angel」
Song “MY ANGEL” for her grandma

そんな実の母のように慕った祖母は、ケリーが高校生の頃、2002年に他界。

「I Wonder」が収録されているデビュー・アルバム『Small Town Girl』にはそんな祖母に宛てた曲「My Angel」が収録されています。

理解、絆、愛、そういった言葉では表現できない深い想いに心を打たれます。

“MY ANGEL”
Written by Kellie Pickler, Chris Lindsey, Aimee Mayo

(バース1)
毎日学校から帰るとき
私はバスを降りて
あなたが私を待っていてくれている古く埃まみれの道を走り降りる

玄関のポーチで青いブランコに揺られながら
あなたは微笑んで私たちは歌っていたわね
「アメージング・グレイス」や「主 我を愛す」を

(コーラス)
あなたは私の母親のような人
あなたは私の親友
あなたは私がなりたかった全て
そしてあなたは私の全ての良心
かけがえのないもの、
決して他にないものがあるの
それはあなたが私にしてくれたような
私を愛してくれたこと
おばあちゃん、私のエンジェル

(バース2)
あなたの顔を触れことができないけれど
それでも毎日あなたが私のそばにいてくれているのを感じるわ
あなたが私の夢がかなっていくところを全て見ていてくれたらなって思う
私が道に迷い目を閉じるとき
あなたが眩い光で私を照らしてくれることを感じるわ

(コーラス)
あなたは私の母親のような人
あなたは私の親友
あなたは私がなりたかった全て
そしてあなたは私の全ての良心
かけがえのないもの、
決して他にないものがあるの
それはあなたが私にしてくれたような
私を愛してくれたこと
おばあちゃん、私のエンジェル

(コーラス)
あなたは私の母親のような人
あなたは私の親友
あなたは私がなりたかった全て
そしてあなたは私の全ての良心
かけがえのないもの、
決して他にないものがあるの
それはあなたが私にしてくれたような
私を愛してくれたこと
おばあちゃん、私のエンジェル

ケリーは、昨年祖母の誕生日であった6月15日に約2年半交際していた米ソングライターのカイル・ジェイコブス(Kyle Jacobs)と婚約。今年1月1日にカリブの島でひっそりと挙式をあげました。

厳しい環境の中で育ちながらも米カントリー界主要音楽祭CMT賞他数多くの賞の受賞、将来の米カントリー界を担う期待のアーティストとして一躍注目を浴びる存在となったケリーですが、そうした成功の裏には、かけがえのない祖母の存在があったのかもしれません。

ケリー・ピックラーについて
About Kellie Pickler
ケリー・ピックラー公式サイト(英語)

ケリー・ピックラー公式サイト(英語)

ケリー・ピックラー(Kellie Pickler、1986年6月28日)は、米人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』(American Idol)シーズン5のファイナリスト(第6位)として広く知られる米ノースカロライナ州アルベマール(Albemarle)出身のカントリー・シンガーソングライター。

2006年10月にデビュー・アルバム『Small Town Girl』をリリース。リリース第1週で約7万9千枚を記録し、米ビルボード「トップ・カントリー・アルバム・チャート」(Top Country Albums chart)では見事第1位を記録、親友のキャリー・アンダーウッドに次いで『アメリカン・アイドル』出身者としては史上2番目の快挙となっています。

(プロフィール書きかけ中…)

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