Lil Nas Xバイラルヒット「Old Town Road」全米ビルボードHot 100首位


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30ドルから全米首位へ

アトランタ出身の新鋭ラッパーLil Nas X(リル・ナズ・X)のバイラル・ヒット「Old Town Road」が今週の全米ビルボード総合ソングチャート「Hot 100」で先週の15位から大きくジャンプアップし、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)の通算8週首位曲「7 Rings」に代わって第1位を記録しました(Billboard、2019年4月13日付)。昨年まで音楽アーティストとしては殆ど知られていなかったLil Nas X、現在アメリカをはじめイギリス(※全英シングルチャート第2位、2019年4月18日付)などヨーロッパ諸国を中心にバイラルとなっており、人種差別問題にまで発展した議論とともにTIME紙、CNN、ニューヨーク・タイムズ紙など音楽メディアを超えて注目を集めます。

2018年12月公開のミュージック・ビデオ(Visualizer)では、ゲーム『レッド・デッド・リデンプションII』(Red Dead Redemption 2)の映像が用いられ、西部開拓時代の終わりを告げた1899年アメリカ西部の町を舞台に無法者ギャングの姿を映す

ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)のロックナンバー「34 Ghosts IV」をサンプルに、カントリーではお馴染みのバンジョーとモダンなヒップホップのビートを融合したクロスオーバーのカントリー・ラップ「Old Town Road」はもともと2018年12月にリリース。その火付け役となったのは動画共有アプリ「TikTok」で、「Old Town Road」の音楽に合わせ突然カウボーイ、カウガールの姿に変身するチャレンジ「Yeehaw Challenge」(イヤッホー・チャレンジ、カウボーイが馬に乗っているとき叫ぶかけ声から)が若者の間で昨年よりミームとなり、SNSでも話題となっているハッシュタグ「#yeehaw」チャレンジ動画の再生回数はTikTokだけでも現在8100万回を超えます。

こうした現象を受け「Old Town Road」のストリーミング、ダウンロード数が急増。ニールセン・ミュージックによると集計締め切り4月4日までに同曲の米国内における週間ストリーミング数は4660万回(前週比60%アップ)を記録し、今週の全米ビルボード「ストリーミング・ソング」チャートで第1位を記録。また同曲の米国内における週間ダウンロード数は集計締め切り4月4日までに22,000ダウンロード(前週比83%アップ)にのぼり、今週の全米ビルボード「デジタル・ソング」チャートで第3位を記録。ラジオ・プレイでも好調を見せ同曲は今週「Hot 100」で初首位を飾りました。ビルボードによると今回アーティストがコラボなしに単独で「Hot 100」初首位を獲得するのは、2017年10月に初首位となったカーディ・B(Cardi B)の「Bodak Yellow (Money Moves)」以来だといいます。

「Old Town Road」のバイラルとともに注目を集めたのは、アトランタ出身の黒人ラッパーによる同曲がカントリー・ソングであるかを巡ってのビルボードの対応。「Old Town Road」は先月「ホット・カントリー・ソング」チャート第19位でデビュー(※2019年3月16日付)、しかし翌週にはビルボードの判断で同チャートから削除。その理由についてビルボードはRolling Stone誌に文書で回答し「さらに精査した結果、Lil Nas Xの”Old Town Road”は今のところ、ビルボードのカントリー・チャートに含まれないものと決定された」、「ジャンルに分けるとき幾つかの要素が審査されるが、しかしまずは音楽的な構成(musical composition)だ。”Old Town Road”はカントリーとカウボーイのイメージを組み込んでいるが、現在の曲のバージョンではチャートに満たす今日のカントリー音楽の要素が包含されていない」。

その判断には様々な非難の声が寄せられ、CNNは人種差別的との声も紹介。ニューヨーク・タイムズ紙は「その決定について多くの評論家は、人種がファクターになっていたのか疑問視し、また現代のカントリーはラップやヒップホップの電子ドラム・サウンドを度々使用していると指摘」と言及。Rolling Stone誌はこうした問題はカントリーに限られないとし「音楽業界では、ロックやホップもまた白人による白人のための音楽としての考えがある」と痛烈に批判、ジュース・ワールド(Juice WRLD)による「お手本のようなロックンロール」で「おそらく2019年最も成功したロック・アルバム」の『Death Race for Love』がSpotifyのロックのプレイリストにないことに言及します。一方、音楽界でダイバーシティとインクルージョンを早くから取り組んできたビルボードは今回の決定は人種によるものではないと否定。

Remix

そうしたなかマイリー・サイラスの父でカントリー・スター、ビリー・レイ・サイラス(Billy Ray Cyrus)が先週3日自身のSNSでLil Nas Xを支援し、「Lil Nas X、”Old Town Road”で起こっていることを全て見ている。俺がチャートから外された時はウェイロン・ジェニングス(Waylon Jennings)は俺にこう言ったものだ、”褒め言葉として受け取れ”とな。お前は何かスゴイことをやってるってことだ!アウトローだけが追放されるもの。同志に歓迎だ!」先週5日にはビリー・レイ・サイラスが加わったリミックス「Old Town Road (Remix)」がリリースされ勢いはさらに加速、同リミックスを受けて来週以降「ホット・カントリー・ソング」チャートに加わる可能性が出てきました(※追記、その後Billboardはカントリー・チャートに含めない姿勢を維持した)。

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TIME紙のインタビューでカントリー・チャートからの削除にLil Nas Xは「何か新しいことに挑戦する時は決まって風当たりが強いものと信じている」。同曲はもともとSoundCloud、iTunesではカントリーとしてリリース、同曲がカントリー・ソングかと問われると「この歌は”カントリー・トラップ”。どちらでもない。両方。両方であるべきだ」。「(SoundCloudとiTunesでは)カントリーに分類した。ジャンルを選択してアップロードする時、”カントリー・トラップ”がなかった。トラップというよりカントリー寄りの曲だと感じている」(Rolling Stone誌)。大ヒットとなったジェイソン・アルディーン(Jason Aldean)の「Dirt Road Anthem」、トビー・キース(Toby Keith)の「Red Solo Cup」などカントリーとヒップホップのブレンドは決して新しいものではないものの、絶妙に調合された感染性のある”カントリー・トラップ”・サウンド、カウボーイの姿と重ねる19歳のワイルドなリリックが人々を捉えます。

(イントロ)「Yeah、馬に跨がり旧街道へ出よう/俺は乗り続ける、限界まで/馬に跨がり旧街道へ出よう/俺は乗り続ける、限界まで/キオ、キオ」(バース1)「馬を手に入れたぜ、後ろにな/馬具付きで/ハットはマットブラック/お揃いのブラックのブーツを手に入れた/馬に乗りながら、ハッ/お前はポルシェにムチを打てる/俺はずっと底にいた/お前はそこにいなかった、そして今」(コーラス)「誰にも俺に口出しさせない/お前は俺に口出しできない/誰にも俺に口出しさせない/お前は俺に口出しできない」

Lil Nas X(本名 Montero Lamar Hill)が音楽を作り始めたのは昨年5月からだといいます。音楽の道に進むために大学を中退した彼に両親は反対。そのため家に戻れなかったという彼は家を離れ、夜も殆ど寝ず頭痛とともに音楽制作を続けていたといい、「Old Town Road」はその当時の心境を一匹狼のカウボーイと重ねます。「”馬に跨がり旧街道へ出よう/俺は乗り続ける、限界まで”っていう歌詞は、乗り続けろ、止まるんじゃないってことを意味している。カウボーイのライフスタイルが間違いなくこの歌にぴったりだと感じている」とLil Nas X。もともとこの歌は「全てから逃げ出すような曲として始まった」(Genius)。しかしその後「逃避行な物語からOld Town Roadを栄光への道のシンボルとして意味を変えたんだ」。「バース1では、全て荷物を詰め込んで出発する。バース2では、全てがうまくいく道にいるってことを歌っている。コーラスの”誰にも俺に口出しさせない”ってのは、ある意味で俺の両親へのジャブのようなもの。俺に音楽をやめさせ、大学に戻したがっていたからね。だから”誰にも俺に口出しさせない”ってね」。

聞く人に音楽ジャンルは関係なく「Old Town Road」がバイラルとなると各レーベルからオファーが殺到。先月2019年3月にLil Nas Xはコロムビア・レコードとレコード契約を果たし、20歳の誕生日(4月9日)を迎えた今週、カントリー・チャートではなくジャンルを超えた「Hot 100」で全米初首位。そんなLil Nas Xにビリー・レイ・サイラスはSNSで「誕生日おめでとう!限界まで走り続けよう!夢はでっかくな、こうしなきゃいけないなんてない!」ちなみに「Old Town Road」のサウンドはLil Nas XがマーケットプレイスBeatStarsでオランダのティーンYoung Kioから30ドルで購入。「音楽制作をやりはじめの頃は、人々が求めていると考えたものをやっている感じだった」、しかし「Old Town Road」は「俺自身がやりたいものを作っていた」とLil Nas X。「グッチのカウボーイハット/俺のケツにはラングラー」、西部開拓時代の気概を纏い柵を破り夢に向かうアウトローの曲に乗り、今若者たちがその姿を変えていきます。

 

今週の「Hot 100」トップ10
第1位 Lil Nas X「Old Town Road」
第2位 ポスト・マローン/Post Malone, Swae Lee「Sunflower」
第3位 アリアナ・グランデ/Ariana Grande「7 Rings」
第4位 ポスト・マローン/「Wow.」
第5位 ホールジー/Halsey「Without Me」
第6位 カーディ・B&ブルーノ・マーズ/Cardi B & Bruno Mars「Please Me」
第7位 ビリー・アイリッシュ/Billie Eilish「Bad Guy」
第8位 ジョナス・ブラザーズ/Jonas Brothers「Sucker」
第9位 マシュメロ/Marshmello & バスティル/Bastille「Happier」
第10位 J・コール/J. Cole「Middle Child」
※2019年4月13日付

今週の「Billboard 200」トップ10
第1位 ビリー・アイリッシュ/Billie Eilish『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』
第2位 Nipsey Hussle『Victory Lap』
第3位 アリアナ・グランデ/Ariana Grande『Thank U, Next』
第4位 ジョージ・ストレイト/George Strait『Honky Tonk Time Machine』
第5位 ジュース・ワールド/Juice WRLD『Death Race for Love』
第6位 NAV『Bad Habits』
第7位 ポスト・マローン/Post Malone『beerbongs & bentleys』
第8位 映画『アリー/ スター誕生』サントラ『A Star Is Born』
第9位 A Boogie Wit da Hoodie 『Hoodie SZN』
第10位 ドレイク/Drake『Scorpion』
※2019年4月13日付

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