ブリテンズ・ゴット・タレント2020 全ゴールデンブザー


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2020年の頂点をかけて才能、芸術性を競い合うイギリスITV才能オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』(原題:Britain’s Got Talent)シーズン14が先月より放送を開始。才能を磨き上げた出場者たちが夢の舞台に挑み、イギリスを歓喜と感動で熱くさせている。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響により今年は2部構成。4月11日から5月23日の7週にかけて、ロックダウン前に収録されていた「オーディション・ウィーク」(初戦ラウンド)を放送。ライブ・ショーとなるセミ・ファイナル以降の放送日程は、3月23日から始まったイギリス全土のロックダウンの影響により現在未定となっている。

審査員は引き続きサイモン・コーウェル(Simon Cowell)、アマンダ・ホールデン(Amanda Holden)、アリーシャ・ディクソン(Alesha Dixon)、デヴィッド・ウォリアムス(David Walliams)。司会は引き続きAnt & Dec。「オーディション・ウィーク」は、ロンドン・パラディウムで2020年1月18日-20日/22日-23日、続いてマンチェスターのThe Lowryで2020年2月5日-7日/9日-10日に収録された。

第1週 Sign Along With Us

4月11日放送の初回。イギリスを感動で包んだのは、イングランド北西部マンチェスター出身の手話合唱団Sign Along With Us(サイン・アロング・ウィズ・アス)。4歳から58歳まで、37人の子どもたちと28人の大人からなるSign Along With Usが、2017年ミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』(原題:The Greatest Showman)劇中歌「This Is Me」を手話と歌声で披露。審査員デヴィッド・ウォリアムスから今シーズン最初のゴールデンブザーを獲得した。

舞台に登場したのはグレーター・マンチェスター北部の小さな町Heywoodからやってきた18歳姉ジェイド(Jade)と当時4歳(現在5歳)の弟クリスティアン(Christian)。ジェイドはステージで「クリスティアンは、一生コミュニケーションがとれないと言われました。私は弟に手話を教えました。そうすればきっと話せると思って。そして今ここにいます。小さな奇跡です。弟は全ての人が間違っていたのだと証明したのです」。そうこなくっちゃ!!と観客席から叫ぶ黒人のおばちゃん。「人々に手話を教えてあげたいと思い立ち始めました、たくさんの人が参加してくれて本当に驚きました」とジェイド、合唱団Sign Along With Usが誕生した。メンバーの一人、12歳エラは今回の舞台に「夢が叶った瞬間だわ」。「This Is Me」が始まると、ステージに子どもから大人まで次々にメンバーが登場。姉弟の母親も加わり、力強い手話と歌声でダイナミックな「This Is Me」を披露した。

(バース1)「その暗闇は初めてじゃない/消え失せろ、彼らは言う/おまえみたいな欠陥品、見たくもないと/私が学んだことは、自分のキズを恥じること/どっか行けよ、彼らはそう言う/おまえなんか、誰からも一生愛されないと」、「でもそんなことで挫けたりしない/私たちにだって、きっと居場所がある/輝ける場所が」(コーラス)「ナイフよりも鋭利な言葉が私を切り刻むとき/洪水で押し流そう/勇敢に立ち向かい、傷つき、/私らしくいる、これが私」、「みて、私はここにいるわ/マーチングドラムの音に乗り突き進む/どう思われたって構わない/自分を曲げたりなんかしない/これが私」

一人一人が目を輝かせ手話を交え全身で表現。それを見てクリスティアンも加わり、全員で拳を天高く突き上げると、劇場は歓喜に溢れ総立ちの拍手喝采。審査員全員も加わり、スタンディングオベーションに包まれた。大粒の涙を流したアマンダ・ホールデンは「社会から疎外感を感じている人々に力を与えてくれる歌だわ。本当に本当に感動した。素晴らしかったわ」。涙が止まらなかったアリーシャ・ディクソンは「なんて言っていいか言葉が見つからないわ」。アメイジング!!と観客席から叫ぶ黒人のおばちゃん。アリーシャは「クリスティアン、あなたは小さなスターだわ、本当にありがとう」。サイモン・コーウェルは「君たちはまさにこの番組のあるべき姿だ。君たちのオーディションは一生忘れない」。

そしてデヴィッド・ウォリアムスは「君たち一人一人がこの舞台に全力を注いだ。本当に素晴らしかった。人々へのポジティブなメッセージ、私が言えることがあるとすれば…」、ゴールデンブザー。子どもたちも大人たちも抱き合い金色の紙吹雪のなか歓喜の涙を輝かせた。ゴールデンブザーを獲得したSign Along With Usはライブ・ショーへ送られる。

新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)により脳性麻痺となったクリスティアン。新生児低酸素性虚血性脳症は、出生時に脳への血流が遮断されることにより脳神経細胞が低酸素および低血糖に陥り引き起こされる脳障害。新生児低酸素性虚血性脳症になった半数の新生児が死亡または脳性麻痺等の重度の神経後遺症を残すとされている。新生児低酸素性虚血性脳症により出生時に24分間呼吸が停止、意識不明で命の危険があったというクリスティアン(Metro)。脳性麻痺となり言葉を話すことができず、成長に伴い自分の意思を伝えられず、癇癪を起こすようになったという。ジェイドはイギリスの番組『This Morning』(2019年11月28日2020年4月13日)で「コミュニケーションは一生不可能だと言われました。視覚障害で見ることもできないし、理解もできないって。でも私はそれを答えとして受け入れませんでした。クリスティアンはテレビを楽しんでいたし、もし私が手話をできて彼と会話できれば、と思い立ちました」。

彼に手話を続け1年半後、「食べ終えたよ」と手話で初めて返してくれたといい、「ママ、ママ!こっちに来て!と泣きながら母を呼んで、そしてもう一度クリスティアンが手話で話してくれたのです。その日から食事を終えるといつも手話で”食べ終えたよ”と言うようになったのです。その手話を覚えるとスイッチが入ったように次々に手話を覚え、今では200ほどの手話ができます」。Sign Along With Usの始まりは、クリスティアンや同じような境遇の人々の助けになれればと思いSNSで始めた手話で歌う動画だった。「音楽は彼にとっていつも癒しとなるものでした。踊ったり、ハミングしたり。なので彼が大好きな手話と音楽を一緒にすれば、彼の手助けになると思い、そうして彼は手話の大半を覚えたのです。歌の中で手話を理解し、覚えられるのです」とジェイド。そうした動画は音楽アーティストらにも届き、アン・マリー(Anne-Marie)、ルイス・キャパルディ(Lewis Capaldi)、トム・ウォーカー(Tom Walker)、ローナン・キーティング(Ronan Keating)ら豪華スターから次々に応援のメッセージが寄せられた。僅かながら言葉も話し、番組『This Morning』でクリスティアンは笑顔で顔を揺らしながら「ダイスキ」、「to the moon and back」(月まで行って戻ってくるくらい)。

手話を覚えてからは、とても幸せそうで楽しそうにしているというクリスティアン。そんな彼は養子としてジェイドの家族に迎え入れられた。「クリスティアンの本当の姿、彼がどんなに素晴らしい子か私たちは知っていたけれども、養子に迎えることになると、誰も現れず、誰も彼のことを気にしなかったことはとてもつらいことです。書類ではこの子にはいくつかの障害があり、人生の望みがあまりないと書かれていて、とても酷なものです。でも人間として、クリスティアンはクリスティアン。彼はどんな場所も明るくする存在、まさに奇跡の子です。しかしそれは人々が目にする書類には全く書かれていませんでした。人々は知らなかったのです、私たちが知っているようなクリスティアンの本当の姿を」。困難を抱えている人をはじめ、年齢も様々な合唱団のメンバーとともにブリテンズ・ゴット・タレントの舞台にあがったクリスティアン。ジェイドは「合唱団のみんなはいつもお互いに助け合っていて」、「彼らが100%自分のままでいられる場所です」。レインボーを顔を塗り、手話を交えて歌うその姿をロックダウンさなかのイギリス中の人々が目にし、劇場は鳴り止まぬ歓声に包まれた。「クリスティアンや彼と同じような子たちが、社会から制限されずに孤立感を感じなくていい世界であってほしい」(Manchester Evening News)、多様性に富んだ世界へジェイドはその夢を胸に手話への理解と普及に力を入れている。

第2週 Jon Courtenay

4月18日放送の第2週。マンチェスター出身、46歳のコメディアン歌手ジョン・コートニー(Jon Courtenay)が自身の夢だったというロンドン・パラディウムの舞台に上がり、笑いあり涙ありのオリジナル曲で沸かせた。「ある夢を抱く男がいた/ピアノを弾きながらサイモン・コーウェルと彼のチームを/笑い転げさせようとしている夢を/パラディウムのステージで」

「デヴィッドはまた本を書き/アリーシャは彼に微笑みかけ/アマンダは彼に優しく/笑顔のサイモンは歯が眩しくて見えなくなり/しかし夢を破れるものはない、スーザン・ボイルのように」エスプリに富んだ歌詞で、何百万もの人々が観る夢の舞台に上がるまでの自身の人生を歌う。「父ちゃんは”グレイテスト・ショーマン”だよ」と子どもたちに背中を押され、夢を追いかけた父親の姿に観客席の息子は涙を流した。「子どもたちはBGTの私を観るだろう/他の誰かでなく/父ちゃんの姿/これが私」と力強い歌詞で締め、パラディウムは総立ちの拍手喝采。長男がステージに駆け上がり、父親を抱きしめた。

「恋に落ちそうになったわ」とアマンダ・ホールデン、「全ての夢を叶えた男性を目にしたわ」。デヴィッド・ウォリアムスは「家で見ている全ての視聴者を君は恋に落としたよ」。アリーシャ・ディクソンは「感動で涙が出たわ。完璧なショーだった、この戦い、どこまで勝ち上がっていくかあなたを見守りたいわ」。そしてサイモン・コーウェルは、「本当に素晴らしいオーディションだった」、「君にはチャンスが必要だ、大反響を呼ぶことは間違いない」と語り投票に入ろうとしたところ、Ant & Decが駆け寄り「いくぞ」と、ゴールデンブザー。家族全員が舞台に上がり、歓喜と祝福に包まれた。

第3週 Fayth Ifil

4月25日放送の第3週。イングランド北東部の工業タウン、スウィンドンからやってきた12歳のフェイス(Fayth Ifil)がティナ・ターナー(Tina Turner)のクラシカルな代表曲「Proud Mary」(’71)を歌い、サイモン・コーウェルからゴールデンブザーを獲得した。

パフォーマンス前にフェイスは「いろんな学校からちょっとネガティブなことを受けて少し自信を失っていました。でもママとパパのおかげでそれを乗り越え、そして今日この舞台に立っています」。緊張と興奮の面持ちの12歳はティナ・ターナーのアイコニックな曲がかかると一変し、「ミニ・ティナ・ターナー」の美しく芯の強い歌声を披露。ソウルフルな序盤からギアを上げ、ロックンロールのエネルギッシュなパフォーマンスで観客を熱狂に包み、スタンディングオベーションが送られた。

デヴィッド・ウォリアムスは「たまにあるんだ。この番組で非常にまれに。ステージに現れ、こう思わせる、この人はスーパースターになるために生まれてきたんだなって」。そして「君の個性がすごく好きだ」とサイモン・コーウェル。「君は両親からの応援を語り、そしてこの劇場の3,000人の人々が君を応援している。私はもう少し応援したい、こいつで」とゴールデンブザー。フェイスは母親と抱き合い泣き崩れた。サイモン・コーウェルもステージに上がり「まるでティナ・ターナーがステージに帰ってきたみたいだ」。ネガティブなことを受けても「一番大切なことは、気にしないことだ。君のままでいれば、君の勝ちだ」、「ネガティブなことがあったら、この瞬間を思い出すんだ」とアドバイスを送った。

第4週 Honey & Sammy

5月2日放送の第4週、イングランド東部エセックス州チグウェル出身の14歳ハニー(Honey)と、この日43歳の誕生日を迎えた母親サミー(Sammy)のデュオ。舞台に登場した二人にサイモン・コーウェルは「母と娘が一緒に組む時、いつも気になるんだが、どっちのアイデアだったのかい?」ハニーは「私のアイデアです。母には伝えず応募しました」。その理由についてハニーは「2年前に母が、がんの宣告を受けてそれで」、「ごめんなさい…」、「この数年間ずっとつらい日々が続いて、こうして今日母と一緒にいることが、私の人生で最高のことだからです」。「全てのことに、とても感謝しています。車の中で一緒に歌っていたような私たちが、このような舞台に出ることができなんて夢にも思っていませんでした」。

2018年1月に乳がんの宣告を受けたサミー、18ヶ月に及ぶことになる闘病生活に入った。右胸を全摘出、周辺のリンパ節を摘出する手術を受けた。当時12歳だったというハニー。サミーは英Mirror紙で当時を振り返り「毎晩私はハニーと一緒に寝ました。もし娘のそばにいれなくなるなら、彼女に伝えたい人生のアドバイスが山ほどありました」。「もし男の子があなたにこうしたら、こうしなきゃだめよって」。闘病中、ハニーは決して母親に涙を見せなかったという。「そして新しいペットも飼いました。ハニーがずっとハムスターをおねだりしていたのですが、私はダメよと言い続けてきました。でもがん宣告を受けて、こう思うようになったのです。人生は一度きり、ハムスター飼っちゃいな!って」。

もともとソプラノ歌手として11歳の頃からクラシカルなトレーニングを受け、歌手の夢を追っていたというサミーは、ハニーが生まれてからは人前で歌うことはなかったという。そんな母親から歌声を受け継いだハニーは、エイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)やレオナ・ルイス(Leona Lewis)、デュア・リパ(Dua Lipa)らを輩出している名門シルビア・ヤング・シアター・スクール(Sylvia Young Theatre School)に通い、母親と同じ夢を追っている。

ハニーとサミーはこの日、ブロードウェイ・ミュージカル『ウェイトレス』よりサラ・バレリス(Sara Bareilles)の「She Used to Be Mine」をデュエットで挑んだが、サイモン・コーウェルが難色を示し中断させた。「歌が気に入らないな」とサイモン、「だが君たちの歌声はとてもあっている」、「後でもう一度曲を変えて戻ってきてくれ」。何度かあったこの展開。「思ったり早かったね」とサイモン。サミーは「母親としてこの歌詞は自分と重なります。きっとどんな母親もそのはずです。ハニーはずっと私の支え、今回もそうです」。

二度目の挑戦で二人は、フレイヤ・ライディングス(Freya Ridings)のバラード「Lost Without You」をデュエットで披露。審査員と3,000人のスタンディングオベーションが送られた。ハニーは歌い出しから息を苦しそうにしていたが、この日ハニーは重度の喉頭炎で話すのもままならない状態だった(EveningStandard)。サイモンは「まさに君たちにこの瞬間がふさわしい。いつまでもこのオーディションを忘れない」。デヴィッド・ウォリアムスは「君たちが歩んできた道のりがどんなに険しいものだったか想像もつかない。今日この瞬間を、君たちはとんでもなく特別なものにした。完璧だった、本当によくやったよ」。アリーシャ・ディクソンは「二人の絆が本当に大好きだわ。母と娘の絆ほど美しいものはないわ。本当におめでとう、素晴らしかったわ」。そして8歳(Hollie)と14歳(Lexi)の娘がいるアマンダ・ホールデンは「歌詞の一つ一つに心を込め、あなたの人生が痛いほど伝わってきた。最も素晴らしいものを目撃したわ」。不意打ちのゴールデンブザーに母と娘は歓喜の涙で力強く抱擁した。

共に闘った闘病生活。ハニーは「私は心から母を尊敬し、彼女のそばにいるのが大好きでした。天井から降る金色の紙吹雪、その中で見た母の顔を一生忘れません」。

第5週

日本時間5月10日日曜日放送。

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