欧州を中心に今年は世界42カ国でその頂点を競う音楽コンペティションTV番組『ユーロビジョン2017』(Eurovision Song Contest 2017)の準決勝(現地時間2017年5月9、11日)及び決勝戦(現地時間2017年5月13日)が、先週、前年覇者国ウクライナ首都キエフにて開催。
欧州の結託のもと、今年で62回目を迎えた同コンペティションでは、ポルトガルが27歳リスボン出身サルバドール・ソブラル(Salvador Sobral)の悲哀のバラード「Amar Pelos Dois」で圧巻の初優勝。次いでブルガリアが17歳人気歌手クリスティアン・コストヴ(Kristian Kostov)による珠玉のラブ・ソング「Beautiful Mess」で第2位、そしてモルドバがサンストローク・プロジェクト(Sunstroke Project)によるアップビートなEDM「Hey, Mamma!」で第3位を獲得しました。
オッズで有力候補となっていたゴリラ・ダンスのイタリアは第6位、同じくエンターテインメント性で注目されていた前年開催国スウェーデンは第5位にとどまる一方、街灯りと孤独が交錯する繊細な楽曲「City Lights」を17歳(Blanche)歌姫Blanche(ブロンシュ)が心震わすソウルフルな歌声で魅了し、ベルギーが第4位を獲得しました。
ポルトガル代表
「Celebrate Diversity」(多様性の祝福)をスローガンとする今回のユーロビジョンでは、今年もヨーロッパ各国の多種多様な文化を反映した音楽・演出のなか、華やかなエンターテインメント性の強いライブ・パフォーマンスで、ウクライナ最大のインターナショナル・エキシビション・センターの会場を熱狂に包みます。
そうした中それまでのパフォーマンスとは対照的に、照明を落とし星々の輝く夜空のなか、会場が静謐な空間に変わると、フロント・ステージではなく、観客席の中央に現れたポルトガル代表リスボンのサルバドール・ソブラル。まるで恋愛映画やブロードウェイ・ミュージカルのワンシーンのように時代と舞台をトリップさせる郷愁のなか、その悲哀のバラード曲「Amar Pelos Dois」が流れ始めます。
「もしいつか誰かが僕のことを尋ねたら/こう彼らに言ってくれ、僕は君を愛するために生きたということを/君に出会う前は、僕はただ存在しているだけだった」、「愛する人よ、僕の祈りを聞いてくれないか/君に戻ってきてほしい、そしてもう一度僕を必要としてほしい」
作詞作曲を手掛けるとともに、健康に問題を抱えるサルバドールに代わり同大会に尽くしてきた姉ルイーザ・ソブラル(Luísa Sobral)が見守る中、哀愁漂う深遠な表現力とともに、情感震える美しい歌声でそっと歌い上げるサルバドール・ソブラル。ジャズ奏者チェット・ベイカー(Chet Baker)のファンであるサルバドールは、20年代から50年代のグレイト・アメリカン・ソングブック、そしてボサノヴァの美しい旋律に影響を受けたという「Amar Pelos Dois」(Love for Both)に、そのジャズ・ソングのソウルを込めます。
「愛は一人で成立しないことは知っている/もしかしたらもう一度君は時間をかけて気づいてくれるかもしれない」、「もし君のハートが諦めることを望まなかったら/情熱を感じないことを望まず、苦しまないことを望まなかったら/たとえどんなことが待ち受けていても/僕のハートは僕たち二人のために愛することができる」。
僅かな残像に託す深い愛と感傷が流れる同パフォーマンスは感涙を呼び、審査員票及び一般票(50:50)で総計最高758ptを獲得。1964年より参加して以降、53年間一度も優勝経験がなく、1996年の最高第6位にとどまっていたポルトガルが、史上初めて優勝を果たしました。
ポルトガルvsブルガリア
獲得票の内訳では、決勝戦前日(12日)に開催された審査員ファイナル(Jury Final)で集計された42カ国の音楽専門家からなる審査員票で、第3位スウェーデン(218pt)、第2位ブルガリア(278pt)を大きく離してポルトガルが圧巻の382ptで第1位。
決勝ライブで放送中集計され、続いて発表された42カ国パブリック・テレフォン票では、第3位モルドバ(264pt)を大きく引き離し、ブルガリア(337pt)が第2位、そして僅か39pt差でポルトガルが376ptで第1位を記録。
総合して758ptを獲得したポルトガルは、総合第2位のブルガリア(615pt)、総合第3位モルドバ(374pt)を大きく引き離して、終始優位のまま圧巻の勝利に。昨年優勝国ウクライナの534ptも大きく上回る得点で、史上初めての栄冠を手にしました。
“音楽の勝利”
初のトロフィーを手にしたその優勝スピーチで、サルバドール・ソブラルは、「僕が(まず最初に)言いたいのは、僕たちは使い捨ての音楽の世界に生きているということです、内容なきファーストフード音楽です。この賞は、何か意味のある音楽を作っている人々、そしてその音楽への勝利であり得ると僕は思います」とそのステージで訴えます。
「音楽は花火大会ではなく、音楽は感情です。だからこれを変えようではありませんか、そして音楽を取り戻すのです。それはとても大切なことです」とそのヴィクトリー・スピーチに込めます。ゴリラダンスがふと頭をよぎる中、優勝パフォーマンスでは、異例となる姉ルイーザ・ソブラルとデュエットに。
同曲の作詞作曲をはじめ、弟サルバドール・ソブラルの健康問題のため、(ユーロビジョンではその大半を占める重要な)リハーサルでは、弟に代わって、『Idols』シリーズのポルトガル版『Ídolos』シーズン1(2007年)第3位だった姉がその多くのリハーサルを担当するという異例のリハーサルに。
プレス・カンファレンス、インタビューをはじめ姉弟の二人三脚で闘ってきた同大会の最後のパフォーマンスでは、ダイアナ・クラール(Diana Krall)やノラ・ジョーンズ(Norah Jones)を愛するジャズ・ファンの心にも流れる姉ルイーザ・ソブラルの哀愁と温もりの歌声で、美しいデュエットを披露。会場を再び哀感と甘美な白昼夢へと誘います。
「ユーロビジョンの曲でまさか涙がこぼれるとは思わなかったよ、この歌声、この歌詞を聞くまでは」という声も聞こえる中、「Love for Both」の歌でその幕を閉じたユーロビジョン2017。そのハイライトとなるシーンでは、隣で涙を流し弟を祝福する姉の姿がスクリーンに映し出されます。