ケシャ最新曲「Praying」MV公開、レイプ、精神的・肉体的虐待による摂食障害・うつ病から見出す『Rainbow』


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時計の針を止めた4年間、もう一度立ち上がるその先に

当時17歳、米音楽プロデューサーDr. ルーク(Dr. Luke、本名Luke Gottwald)の目にとまり、彼のもと「Tik Tok」、「Die Young」などキャッチーなエレクトロ・ポップ・サウンドにアグレッシブな歌声、そしてセクシャルな”肉食系”パフォーマンスで、瞬く間にチャートを席巻し世界のスターダムに駆け上ったケシャ(Kesha、本名Kesha Rose Sebert)

しかし2ndアルバムを最後に2014年1月、命に関わる摂食障害のためシカゴ近郊のリハビリセンターに30日間入院。その治療の中で浮かび上がるDr. ルークによるドラッグを用いた性的暴行(レイプ)、精神的・肉体的虐待。

彼のもとで「6枚のアルバム制作」かつ「1アルバムにつき最低6曲以上Dr. ルークをプロデューサーに起用」を条件に締結した2005年(当時18歳)のレコード契約の拘束力からの解放を求め、2014年10月から始まった音楽界を代表する音楽プロデューサーとの熾烈な訴訟合戦は、昨年ケシャが法廷で泣き崩れる姿を見せた敗訴を迎えます。

現在も一部は係争のなか、今週(現地時間7月6日)、ソロシングル曲としてはおよそ4年ぶりとなるケシャの最新シングル曲「Praying」iTunes)及び同ミュージック・ビデオが同時リリース。そして前作『Warrior』よりおよそ5年ぶりとなる最新3rdアルバム『Rainbow』今年8月11日にリリースすることを発表しました。

マドンナ(Madonna)「Ray of Light」のMVでグラミー賞を受賞したスウェーデン映像監督ジョナス・アカーランド(Jonas Åkerlund)が手がけるミュージック・ビデオ冒頭では、悪の化身の如き存在を両脇に、鮮やかな装飾を纏い棺に横たわるシーンから、限りなき大海原の中で虚無感に揺蕩うモノトーンのシーンへ、現世と冥界の狭間を見つめるようにそのナレーションが流れます。

私は死んでいるの?それともあの夢の一つ?永遠に終わることのないような悪夢の。もし生きているのなら、なぜ、どうして?神やそうした存在がもしどこかに存在するのなら、なぜ私は知る人全て、全てのものから見捨てられているの?私は今まで愛されていたの?」、「どうにもできない。その教訓は?意味は?神よ、私に啓示を与えて下さい、それがなければ生きられないわ。これ以上耐えられない。お願いこのまま死なせて。生きているのが辛すぎるわ」。

18歳、少女を変えたもの

Kesha - Praying

Kesha – Praying

これまでのエネルギッシュで挑発的でさえあったパーティ・ガールのアップビート・ナンバーとは対照的に、哀切なピアノの旋律に身を任せるように静かに弾き語り始める30歳。まだDr. ルークと出会う前、学校ではマーチングバンドでトランペット、サクソフォーンを吹き、物理学と数学が大好きだったという勤勉なナッシュビルの少女は、大学進学適性試験(SATs)では満点に近い点数で大学から奨学金の申し出を受けるなど、ダンスやパーティよりも学術に深い興味を持っていた女子高生(npr)。しかしケシャのデモ・テープがDr. ルークの目にとまると、彼に促され高校を中退。

そして18歳の時、(ケシャの供述によると)Dr. ルークとともにパリス・ヒルトンの妹ニッキー・ヒルトンの誕生会に参加した際、彼からお酒を飲むよう強いられ、酔い覚ましに飲むよう渡された薬(※後にドラッグと判明)により、意識不明に。目が覚めたときには、ホテルの一室に裸の音楽プロデューサーとベッドの中。一度も男性との経験がなかった少女は、初めての経験がレイプという決して癒えぬ傷とともに、厳しい男性社会の音楽業界の中で全米ビルボードを席巻していきます。

Praying

Billboard – ケシャ対Dr.ルーク訴訟

Dr. ルークが立ち上げたKemosabe RecordsでのDr. ルークのCEOの契約期間は今年3月で切れ、ソニーはその延長をしないことを決断。もっとも何らかの形でレーベルに関わり、ケシャとのDr. ルークの契約の拘束は変わりない。今後もケシャの最新曲及びアルバムは、Kemosabe Records及びソニーより引き続きリリースされる。

マリファナの元ディーラーとしても知られ、ケイティ・ペリー(Katy Perry)「I Kissed a Girl」、マイリー・サイラス(Miley Cyrus)「Wrecking Ball」など数々のヒット曲を生み出し、ケシャに対するレイプ、精神的・肉体的虐待の全てを否認し、勝訴したDr.ルーク。

その世界的ヒットメーカーに代わり、最新曲「Praying」では米ライアン・ルイス(Ryan Lewis)をプロデューサーに迎え、豪ベン・アブラハム(Ben Abraham)、米アンドリュー・ジョスリン(Andrew Joslyn)とともにケシャが制作したピアノ・バラード曲では、性的暴行、精神的虐待により摂食障害、不安障害、うつ病で苦しめた者への心情を、憎しみではない深い思いとともに、今まで決して見せなかった彼女の新しい姿でその祈りを捧げます。

あなたは私にその名声の数々をもたらし、そして私を地獄へと送ったわ/自ら闘う方法を学ばなければならなかったわ/全て真実であるとお互いわかっている/これは私からのお別れだわ」、「あなたがどこかで祈り、祈っていることを願っているわ/あなたの魂が変わり、変わっていくことを願っているわ/あなたが自らの平穏を見つけることを願っているわ

Oh、ときに私はあなたのために夜に祈りを捧げる/いつかあなたがその光を見る日が来ることを

手紙

LENNY Letter

同曲のリリースと同日Lenny Letterにて公開されたケシャのレターでその心情を次のように綴ります。

この曲はたとえ人を傷つけ、人を脅かした者であっても、共感を抱くようになることを謳ったものだわ。独りきりに感じる時、暗闇の中であっても自分に誇りを持つということを謳う曲。そしてまた、たとえ人を傷つけた者であっても、全ての人が癒やしを得ることを願う曲だわ」、そしてケシャ自身にとって「この曲は、自分ではどうにもできないことがあり、そうしたなかで心の平穏を見つける曲、…、水に流し、自分ではなく宇宙が私の運命を握っている、それを理解することを学ぶ曲だわ」。

Kesha - Praying

Kesha – Praying

一筋の光が暗闇を射し込む荒涼たる教会で跪き、静謐な祈りに込める強き信仰。憤り、憎しみは慈しみに、崩壊された心はより屈強な意志と柔らかな情愛へ。絡む網にもがき苦しみながらも、カラフルなスクリーンに映し出される十字架と「GOD IS LOVE」の文字に、次第に慟哭の如く力強くなる歌声。行き場のない怒りに自らを傷つけ、泣き崩れ、そして囚われた30歳のソングバードはその見えないケージから慈愛とともに自らを解放し、虹を掲げる光へと立ち上がり、不可能と思っていた道を再び静かに歩き始めます。

私たちは最も辛い時期から最も強い力を得るわ」と綴るケシャ。日夜ベッドのなか、夜は暗闇の中一人泣け叫び続ける精神状態だったという彼女は「自分をベッドから引きずり出し、自分の感情をスタジオへ、そしてそれらを楽曲にしたの。このアルバム以上に作品で幸せを感じることはこれまで一度もないわ」と振り返ります。

Kesha - Praying

Kesha – Praying

この曲が苦難の真っ只中にいる人々へ届くことを願っているわ、たとえどんなに今が辛いようであっても、あなたはそれを乗り越えることができる。愛と真実を味方にすれば、あなたは決して打ち負かされることはないわ。決して諦めないで」。

法廷の裏側

CNN

CNN

2016年2月、Dr. ルークのレーベルKemosabe Records及びその親レーベルであるソニー(Sony Music Entertainment)のRCA Recordsとのレコード契約の拘束力の解放を求めたケシャの仮差止請求は、ニューヨーク最高裁により「(契約条項は)熟考された内容で、音楽業界では通常のもの」として却下。

そして2016年4月、ケシャが訴えていた性的暴行、精神的・肉体的虐待等は、ニューヨーク最高裁により証拠不十分のため全て却下され、敗訴。これらの判決を下したNY最高裁判所裁判官は女性裁判官Shirley Kornreich。後に同裁判官の夫は、ソニーをクライアントにもつNY法律事務所(Proskauer Rose LLP)の弁護士であることが明らかになり、その問題が大きくメディアにより報じられます(ET)。

同判決前には、Dr. ルーク側から、一度もレイプがなかったことを述べ、公的に謝罪すれば、ケシャを契約の拘束から自由にする旨の申し入れがあったものの、ケシャはこれに強く反対。「私は決して真実を撤回なんかしない。再びモンスターのために嘘をつくことよりも、真実をもって自分のキャリアを破壊する方を選ぶわ」とインスタで語った3日後、Shirley Kornreich裁判官より敗訴の判決が下されます。

2016年4月29日、EDM音楽プロデューサー、ゼッド(Zedd)の2ndアルバム『True Colors』よりケシャとコラボレーションしたタイトル・トラック「True Colors」がリリース。

こうした敗訴を受け、ケシャを支援する#FreeKeshaの運動に加え、マイリー・サイラス、レディ・ガガ(Lady Gaga)、デミ・ロヴァート(Demi Lovato)、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)、ケリー・クラークソン(Kelly Clarkson)、ロード(Lorde)、イギー・アゼリア(Iggy Azalea)、リリー・アレン(Lily Allen)ら女性アーティストが次々にケシャの支持を表明、擁護し、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)は彼女を助けるため、$250,000(約2870万円)を寄付。

Rainbow

Kesha - Praying

Kesha – Praying

“Praying” は、嵐の真っ暗な雲から太陽の光が覗き始めた時、生まれる最も美しい虹を作り出すその瞬間を歌にしたの」、「もし誰かがあなたを不当に扱う時、その憎しみを取り去って。それはただ一層の負を生み出してしまうものだから。私が最も心救われた唯一のことは、そうした人のために祈ること。怒りや憤りは何も生まない代わりに、あなた自身のストレスと苦悶を増やしてしまう。そして憎しみはウィルスの増悪をあおるものになるわ。誰にもあなたの幸せを奪わせたりなんかしないで!

「Praying」リリースより1週間、最新アルバム『Rainbow』より2ndシングル曲「Woman」(feat. The Dap-Kings Horns)が現地時間7月13日リリースされ、同ミュージック・ビデオが同時公開。女性であることの素晴らしさ、力強さをケシャらしいパワフルなヴォーカルで、フェミニズム滲むリリックとともに歌い上げる。この夏を盛り上げる女性のエンパワーソングの1曲に(追記)。

摂食障害での退院後、「強くあろうとする見せかけの自分を捨て」るべく、アーティスト名を「Ke$ha」から本名に変えたケシャ(Refinery 29)、その第1弾のミュージック・ビデオの最後に現れるのは「the beginning」の文字。「これは始まりに過ぎないわ。…、今までいつも私は人々が期待すると思っていた人になろうとし、期待されると思っていたことを証明しようとしていたように感じる。でもこのアルバムでは、自分の人生の真実だけを語っているわ。このアルバムは私。私が今まで創り出してきた中で最も生身の、真実の作品だわ。…、気に入ってくれると嬉しいわ。今まで私を見捨てないでくれてありがとう。…、みんな愛しているわ」。

(記事)“Kesha Fights Back in Her New Single, ‘Praying'” on Lenny Letter
(記事)“Kesha’s comeback: a timeline of her bitter legal feud with Sony and producer Dr Luke” on Telegraph
(記事)“Kesha vs. Dr. Luke: Inside Pop Music’s Contentious Legal Battle” on The New York Times
(記事)“Kesha Returns With Emotionally Charged Single ‘Praying’: Watch the Video” on Billboard

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