IFPI(国際レコード産業連盟)は現地時間2024年3月21日、世界の音楽市場の売上をまとめた年次報告書「IFPI Global Music Report 2024」(PDF / IFPI)で、2023年の世界の音楽市場の売上は、前年比10.2%増の286億ドルと発表した(IFPI)。これは世界の音楽売上を牽引する有料サブスクリプションの続伸を受けたもので、調査対象の世界58の全ての市場で成長となった。
この2023年の前年比成長率は、2022年(+9.0%)を上回る2桁増で9年連続のプラス成長。ポストコロナの影響により特異な伸びとなった2021年の前年比成長率(+18.5%)に次いで、IFPIが1991年に世界の音楽売上の統計を開始して以来、過去2番目に高い成長率となった。
フォーマット別
フォーマット別にみると、2023年は引き続きストリーミングが牽引し、有料型と広告型を含めた総ストリーミング売上は、2021年(前年比24.3%増の169億ドル)、2022年(前年比11.5%増の175億ドル)より減速傾向にはあるものの、前年比10.4%増の2桁成長を続け、193億ドルへ続伸、2023年全体の67.3%を占めた。拡大傾向にあったストリーミングのシェアは2020年は62.1%、2021年は65.0%、2022年は67.0%、2023年は2022年とほぼ横ばいとなった。
ストリーミングの内訳では、シェアトップの有料サブスクリプションの売上が、前年比11.2%増の140億ドルで2桁成長、成長率では2021年(前年比21.9%増の123億ドル、シェア47.3%)には及ばないものの、2022年(前年比10.1%増〈※1、2023年3月発表時の値は前年比10.3%増〉の127億ドル、シェア48.3%)から伸ばした。2023年の有料サブスクリプションのシェアは音楽売上全体のほぼ半分となる48.9%に拡大した。
2023年は長期化するロシア・ウクライナ戦争に加え、新たにパレスチナ・イスラエル戦争が始まり、世界的な食料・エネルギー価格の高騰が続くなか、主なストリーミング・サービスの料金の値上げが各社相次ぐ一方、有料サブスクリプション数を伸ばし、共有ユーザー/ファミリーアカウントなどを含めると利用者数は世界6億6700万人を超えた。これまで有料サブスクリプションの利用者数は、2020年は4億4300万人、2021年は5億2300万人、2022年は5億8900万人で、2023年は初めて6億人を超えて前年比13%増となった。
2021年に初めて成長に転じたフィジカルの売上は、特にCDの売上の成長とアナログレコードの続伸に支えられ、フォーマット別で最大の成長率となる前年比13.4%増の51億ドルで、3年連続の成長。フィジカルのシェアは音楽売上全体の17.8%で、2021年(前年比16.1%増の50億ドル、シェア19.2%)をやや下回るも、2022年(17.3%)からやや拡大した。こうしたフィジカルの売上はアジアで力強く、アジアのフィジカルの売上が世界全体の49.2%を占め、K-Popアクトの力強いセールスに支えられていると指摘されている。
唯一減少傾向が続くダウンロード&その他デジタル・フォーマットは、前年比2.6%減の9億ドル、シェア3.2%で、2022年(前年比11.7%減の9億ドル、シェア3.6%)より減少幅を縮小したが、シェアはやや縮小。2021年に回復傾向を見せた演奏権(パフォーミング・ライツ / performing rights)とシンクロ権(シンクロナイゼーション・ライツ / synchronization rights)は続伸。2022年にコロナ前の状態に回復した演奏権の2023年の売上は、前年比9.5%増の27億ドルでシェア9.5%で、2022年(前年比8.6%増の25億ドル、シェア9.4%)より2億ドル増。広告、映画、ゲーム、TVでの使用で得られるシンクロ権の売上は前年比4.7%増の6億3200万ドルでシェア2.2%で、2022年(前年比23.9%増〈※2、2023年3月発表時の値は前年比22.3%増〉の6億4,040万ドル、シェア2.4%)よりも緩やかな成長だった。
地域別
地域別では、世界最大の市場でシェア40.9%を占めるアメリカ&カナダは前年比7.4%増、その成長率ではポストコロナの影響により異例の成長になった2021年(前年比21.8%増)に及ばないものの、2022年(前年比5.0%増)よりも大きな成長となった。
音楽市場規模の国別トップ10でイギリス、ドイツ、フランスの3か国がランクインしているヨーロッパは前年比8.9%増、世界シェア28.1%で第2位をキープ。世界シェア第3位のアジアはフィジカルとデジタルの力強いセールスにより前年比14.9%増となった。
地域別の成長率ランキングでは、サブサハラアフリカ(+24.7%)が有料サブスクリプションの成長により2022年(+34.7%)に続いて世界で最も高い成長率を見せ、南アフリカ(+19.9%)がその大部分(77.0%)を占める。次いで14年連続成長のラテンアメリカ(+19.4%)が第2位で、2022年(+25.9%)に続き2桁成長を維持。続いて第3位アジア(+14.9%)、第4位に中東&北アフリカ(+14.4%)で2022年(+23.8%)より減速したが世界全体の成長率を上回った。続いてオーストララシア(+10.8%)、ヨーロッパ(+8.9%)となった。
国別
2023年 | 2022年 | 2021年 | 2020年 | 2019年 | |
---|---|---|---|---|---|
1位 | 🇺🇸アメリカ | 🇺🇸アメリカ | 🇺🇸アメリカ | 🇺🇸アメリカ | 🇺🇸アメリカ |
2位 | 🇯🇵日本 | 🇯🇵日本 | 🇯🇵日本 | 🇯🇵日本 | 🇯🇵日本 |
3位 | 🇬🇧イギリス | 🇬🇧イギリス | 🇬🇧イギリス | 🇬🇧イギリス | 🇬🇧イギリス |
4位 | 🇩🇪ドイツ | 🇩🇪ドイツ | 🇩🇪ドイツ | 🇩🇪ドイツ | 🇩🇪ドイツ |
5位 | 🇨🇳中国 | 🇨🇳中国 | 🇫🇷フランス | 🇫🇷フランス | 🇫🇷フランス |
6位 | 🇫🇷フランス | 🇫🇷フランス | 🇨🇳中国 | 🇰🇷韓国 | 🇰🇷韓国 |
7位 | 🇰🇷韓国 | 🇰🇷韓国 | 🇰🇷韓国 | 🇨🇳中国 | 🇨🇳中国 |
8位 | 🇨🇦カナダ | 🇨🇦カナダ | 🇨🇦カナダ | 🇨🇦カナダ | 🇨🇦カナダ |
9位 | 🇧🇷ブラジル | 🇧🇷ブラジル | 🇦🇺オーストラリア | 🇦🇺オーストラリア | 🇦🇺オーストラリア |
10位 | 🇦🇺オーストラリア | 🇦🇺オーストラリア | 🇮🇹イタリア | 🇳🇱オランダ | 🇧🇷ブラジル |
2023年における音楽市場規模の国別トップ10では、2022年と同様の結果となった。第1位 アメリカ(+7.2%)、第2位 日本(+7.6%)、第3位 イギリス(+8.1%)、第4位 ドイツ(+7%)。2022年に初のトップ5入りを果たした中国(+25.9%)が急成長を続け第5位をキープ。続いて第6位 フランス(+4.4%)、第7位 韓国、第8位 カナダ(+12.2%)、第9位 ブラジル(+13.4%)、第10位 オーストラリア(+11.3%)となった。
総括
今回の発表に際して、IFPIの最高財務責任者のジョン・ノーラン氏(John Nolan)は次のようにコメント。「今年の報告書のデータは、あらゆる市場・地域、ほぼすべての音楽フォーマットで売上の増加を示したもので、まさにグローバルで多様な音楽業界を反映しています」。「有料ストリーミング・サブスクリプションのユーザー数の大幅な増加と価格上昇とともに、3年連続でフィジカルとデジタルの両フォーマットが成長し、総売上の増加に大きく貢献しました」。「この成長は、アーティストとそのキャリアに対するレコード会社の持続的な投資 ──A&Rとマーケティングだけで年間71億米ドル以上──と、それが世界中の音楽エコシステムに与えている影響の結果です」。
「ファンは新しい音楽へのこれまでにない選択肢とアクセスによりますます音楽を愛し、2023年のIFPIグローバル ・チャートには多様な新しいジャンル、アーティストがランクインしています。 これは、こうしたアーティストの才能、彼らのファンの情熱の証であり、またアーティストをサポートし、世界的な成功に向けて可能な限り最高の基盤を提供するレコードレーベルの取り組みの証です」。
「音楽は進化し、革新できるということを何度も示してきましたが、この報告書は世界中の音楽市場の成長の中心にあるアーティストとレーベルのパートナーシップを示すものであり、それは彼らの地域経済へプラスの影響を与え続けるものであります。」
またIFPIの最高法務責任者ラウリ・レシャルド氏(Lauri Rechardt)は、著作権保護、法整備・法律の執行の観点から次のようにコメント。「レコード音楽市場の持続的な成長は心強いものですが一方で、業界が直面している課題を認識することも重要なことです。偽ストリーミング・サービス、あらゆる形態のデジタル著作権侵害、そしてもちろん、アーティストとレーベルの権利を尊重して開発されていない場合には生成型AIの悪用による脅威が生じます」。
「音楽ファンは本物であることを非常に重要視し、私たちの業界には音楽ライセンスと、ファンにこうした体験を提供する新しいサービスの開発をサポートしてきた強力な実績があります。 とはいえ、不正使用に対処し、音楽エコシステムが長期的に持続可能なものであり続けるためには、効果的なツールと当局の支援が依然として必要です。」
Chat GPTが席巻した2023年。画像、映像、音楽の生成型AIが次々に誕生し話題となるなか、この報告書の冒頭でも音楽コンテンツの生成型AIの悪用による脅威と課題が次のように言及されている。
「人工知能 (AI) はすでに音楽業界全体で広く採用されていますが、生成型AIの出現により、急速に発展する新たな課題が生じています。 多くの生成AI開発者は、許可や報酬なしに音楽を取得し、アーティストの作品と直接競合する消費者向けのプロダクトを作り上げています」。
「これらの問題に対処し、音楽エコシステムが長期的に持続可能であることを保証するために、レコード会社は効果的なツールと当局およびより広範な業界の支援を必要としています」。
「音楽は、私たちを魅了し、夢中にさせ、私たちを繋ぐ揺るぎない力を何度も証明してきました。 レコード会社がアーティストと協力し、創造性を進化・推進し、世界中の音楽を支援し広めるなかで、私たちはその次の章を作る力となり、その先に広がる信じられないほどエキサイティングな可能性を実現する力になれることを楽しみにしています。」
Charts
IFPIグローバル・シングル・チャート Top 20 2023年
アーティスト | 曲 | 再生数相当 | |
---|---|---|---|
1位 | マイリー・サイラス Miley Cyrus | Flowers | 27.0億回 |
2位 | レマ, セレーナ・ゴメス Rema, Selena Gomez | Calm Down | 18.9億回 |
3位 | シザ SZA | Kill Bill | 18.4億回 |
4位 | ザ・ウィークエンド, アリアナ・グランデ The Weeknd, Ariana Grande | Die For You | 17.8億回 |
5位 | ハリー・スタイルズ Harry Styles | As It Was | 14.6億回 |
6位 | ヤング・ルーカス, ペソ・プルマ Yng Lvcas, Peso Pluma | La Bebe | 14.5億回 |
7位 | テイラー・スウィフト Taylor Swift | Cruel Summer | 13.9億回 |
8位 | モーガン・ウォーレン Morgan Wallen | Last Night | 13.7億回 |
9位 | テイラー・スウィフト Taylor Swift | Anti-Hero | 13.1億回 |
10位 | ジョングク Jung Kook | Seven (feat. Latto) | 12.4億回 |
11位 | デヴィッド・ゲッタ, ビービー・レクサ David Guetta, Bebe Rexha | I’m Good (Blue) | 12.3億回 |
12位 | メトロ・ブーミン, ザ・ウィークエンド, 21サヴェージ Metro Boomin, The Weeknd, 21 Savage | Creepin’ | 12.0億回 |
13位 | ザ・ウィークエンド The Weeknd | Save Your Tears | 11.9億回 |
14位 | ステファン・サンチェス Stephen Sanchez | Until I Found You | 11.8億回 |
15位 | カロルG, シャキーラ Karol G, Shakira | TQG | 11.8億回 |
16位 | サム・スミス, キム・ペトラス Sam Smith, Kim Petras | Unholy | 11.7億回 |
17位 | シザ SZA | Snooze | 10.6億回 |
18位 | トム・オデール Tom Odell | Another Love | 10.1億回 |
19位 | YOASOBI | Idol | 10.1億回 |
20位 | ザ・ウィークエンド The Weeknd | Starboy | 10.0億回 |
※出典:”Miley Cyrus’ Flowers Confirmed by IFPI as Biggest-Selling Global Single of the Year” – IFPI
※IFPI「グローバル・シングル・チャート Top 20 2023」(原題:IFPI Top 20 Global Albums 2023)は、2023年1月1日から12月31日まで1年間、各国の加盟レコード・レーベル集計によるストリーミング数(有料サブスクリプション、広告型プラットフォームを含む)、デジタル・ダウンロード数をもとに、独自の比重に基づいてストリーミング数に換算し、そのストリーミング再生数の相当数でグローバル・チャートにしたもの。
IFPIグローバル・アルバム・チャート Top 20 2023年
アーティスト | アルバム | |
---|---|---|
1位 | SEVENTEEN | FML |
2位 | Stray Kids | 5-STAR |
3位 | モーガン・ウォーレン Morgan Wallen | One Thing At A Time |
4位 | テイラー・スウィフト Taylor Swift | Midnights |
5位 | テイラー・スウィフト Taylor Swift | 1989 (Taylor’s Version) |
6位 | NCT Dream | ISTJ |
7位 | シザ SZA | SOS |
8位 | SEVENTEEN | SEVENTEENTH HEAVEN |
9位 | Stray Kids | ROCK-STAR |
10位 | トラヴィス・スコット Travis Scott | UTOPIA |
11位 | テイラー・スウィフト Taylor Swift | Lover |
12位 | テイラー・スウィフト Taylor Swift | Speak Now (Taylor’s Version) |
13位 | テイラー・スウィフト Taylor Swift | folklore |
14位 | ジョングク Jung Kook | GOLDEN |
15位 | ザ・ウィークエンド The Weeknd | Starboy |
16位 | メトロ・ブーミン Metro Boomin | HEROES & VILLAINS |
17位 | バッド・バニー Bad Bunny | Un Verano Sin Ti |
18位 | ZEROBASEONE | YOUTH IN THE SHADE |
19位 | マイリー・サイラス Miley Cyrus | Endless Summer Vacation |
20位 | IVE | I’ve IVE |
※出典:”SEVENTEEN’s FML announced by IFPI as biggest-selling Global Album of the Year” – IFPI
※IFPI「グローバル・アルバム・チャート Top 20 2023」(原題:IFPI Top 20 Global Albums 2023)は、2023年1月1日から12月31日まで1年間、各国の加盟レコード・レーベル集計によるストリーミング再生数、フィジカル及びデジタルの売上数を集計しランキング化したもの。
IFPIグローバル・レコーディング・アーティスト Top 20 2023年
順位 | 前年 | アーティスト |
---|---|---|
1位 | 1位 | テイラー・スウィフト Taylor Swift 🇺🇸 |
2位 | 6位 | SEVENTEEN 🇰🇷 |
3位 | 7位 | Stray Kids 🇰🇷 |
4位 | 3位 | ドレイク Drake 🇨🇦 |
5位 | 5位 | ザ・ウィークエンド The Weeknd 🇨🇦 |
6位 | (※初) | モーガン・ウォーレン Morgan Wallen 🇺🇸 |
7位 | (※初) | TOMORROW X TOGETHER 🇰🇷 |
8位 | (※初) | NewJeans 🇰🇷 |
9位 | 4位 | バッド・バニー Bad Bunny 🇵🇷 |
10位 | 再(2014年) | ラナ・デル・レイ Lana Del Rey 🇺🇸 |
11位 | 10位 | エド・シーラン Ed Sheeran 🇬🇧 |
12位 | (※初) | IVE 🇰🇷 |
13位 | (※初) | シザ SZA 🇺🇸 |
14位 | 11位 | エミネム Eminem 🇺🇸 |
15位 | (※初) | NCT Dream 🇰🇷 |
16位 | (※初) | ザック・ブライアン Zach Bryan 🇺🇸 |
17位 | 再(2019年) | トラヴィス・スコット Travis Scott 🇺🇸 |
18位 | 12位 | カニエ・ウェスト Kanye West 🇺🇸 |
19位 | 17位 | ポスト・マローン Post Malone 🇺🇸 |
20位 | (※初) | King & Prince 🇯🇵 |
※出典:”Taylor Swift Confirmed by IFPI as Biggest-Selling Global Recording Artist of the Year” – IFPI
※「2023年IFPIグローバル・レコーディング・アーティスト・チャート Top 20」(原題: Top 20 IFPI Global Recording Artist Chart 2023)は、2023年1月1日から12月31日まで1年間の全世界におけるストリーミング数、デジタル及びフィジカルのアルバムとシングルの売上数に基づいて独自の比重でランキング化したもの。
※同チャートで首位となった「IFPIグローバル・レコーディング・アーティスト賞」の歴代受賞者は、2013年ワン・ダイレクション(One Direction)、2014年テイラー・スウィフト、2015年アデル、2016年ドレイク、2017年エド・シーラン、2018年ドレイク、2019年テイラー・スウィフト、2020年BTS、2021年BTS、2022年テイラー・スウィフトとなっている。
※IFPIに関する本記事のすべての記述は、2024年3月にIFPIグローバル・ミュージック・レポートの一部として発表されたデータ、調査意見、見解についてVOICE編集部の解釈に基づいて記述・翻訳されたもので、IFPIの審査を受けたものでありません。 IFPIの各発表は各発表時点の内容で、本記事の発行時点ではありません。
The IFPI Global Music Report 2024, the definitive guide to the global recorded music industry, is out now
— IFPI (@IFPI_org) March 21, 2024
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