世界最大の国別対抗戦・歌コンペティション番組『第69回ユーロビジョン・ソング・コンテスト』(69th Eurovision Song Contest)のグランド・ファイナルが前大会優勝国スイスの古都バーゼルにあるセイント・ジャコブホール(St. Jakobshalle)で現地時間2025年5月17日に華やかに開催され、🇦🇹オーストリア代表カウンターテナー・オペラ歌手JJが、オペラ風テクノ・バラード「Wasted Love」で🇮🇱イスラエルら25か国のファイナリストを破り劇的な優勝を果たした。
オーストリアの優勝は2014年大会以来11年ぶりの優勝で、1966年のウド・ユルゲンス(Udo Jürgens)の「Merci Chérie」、2014年のコンチータ・ヴルスト(Conchita Wurst)の「Rise Like a Phoenix」に続き通算3度目の優勝となる。
オペラとホップを融合しテクノに流れ込み、クラブ・アンセムへとフィナーレで変貌する型破りなオペラ・ポップの「Wasted Love」は、JJが自身の経験に基づいて報われない愛の苦しみを描いた曲。その深淵を感情の嵐に翻弄される船上のステージで、ソプラノの高みに達する圧倒的な声域を持つ表現力豊かなドラマチックな歌声で上演し、審査員票で第1位となる258ポイントを獲得、視聴者票では第4位の176ポイントを獲得し、合計得点436ポイントで優勝した。
ブックメーカーによるオッズで🇦🇹オーストリアは🇸🇪スウェーデンに次ぐ優勝最有力候補の人気曲となり、前大会の優勝曲である🇨🇭スイス代表ニモ(Nemo)の「The Code」と似た曲調という最大の懸念要素があったが、前大会と同じく圧倒的な審査員票を集める形で優勝となった。

優勝発表を受けて歓喜のJJは妹と抱き合い、登壇したJJは「みんな本当にありがとう。家族とチームの皆さん、夢を叶えてくれてありがとう。そして何よりヨーロッパの皆さん、夢を叶えてくれて本当にありがとう」と悲願のガラスマイクのトロフィーを掲げ感謝を語り、感極まりながら「愛は世界で最も強い力です。もっと愛を広げていきましょう」と受賞スピーチで訴えた。
24歳のJJ(本名ヨハネス・ピエッチ/Johannes Pietsch)はオーストリア人の父親とフィリピン人の母親の間にウィーンで生まれ、子ども時代の一部をドバイで過ごし、2016年にウィーンに戻った。2020年にイギリスの歌オーディション番組『The Voice UK』に出場した経験があり、2021年にオーストリアの歌オーディション番組『Starmania』で決勝に進出し名を馳せた。
カウンターテナーとして活躍するJJは少なくとも4オクターブにわたる驚異的な音域を持ち、現在ウィーン国立歌劇場で公演を行っており、モーツァルトの『魔笛』、グスタフ・マーラーの『愛の死』など数多くの作品に出演。またウィーン市立音楽芸術大学MUKクラシック音楽を学び、歌声を磨き続けている。2014年の優勝者コンチータ・ヴルストを師と仰ぐ。
カウンターテナーからソプラノの高音域に達する声域、オーケストラの重厚なサウンドとテクノの要素を組み合わせ、クラシックと現代音楽を融合した「Wasted Love」はJJがオーストリアのシンガーソングライターTeya、音楽プロデューサーのThomas Thurnerと共作。JJは愛の心痛の物語を描いた同曲について次のように語っている。
「この曲は、報われない愛について私自身の経験を完璧に捉えた歌です。深い愛を持ちながらも、行き着く場所がないという独特な悲しみです。それはもろい紙の船に乗って海を漂っているような感じで、わずかな希望にすがりながらもそれが足元で消えていくのを見ているだけという感覚です。それでもそうした疑うことを知らない愛情には、紛れもない美しさがあります。なぜなら結局のところ、たとえどんなに報われなくても、愛することができるということだけで、それ自体が美しいことだからです」
優勝後の記者会見でJJは「本当に信じられない気持ちです。夢が叶った瞬間です。本当にありがとうございます」と喜びと感謝を語った。この優勝で最も嬉しかったのは「愛は勝つということです」と述べ、「私の歌では水泡に帰す愛を歌っていますが、しかし愛は勝つのです。愛を広め、憎しみを忘れましょう。愛こそが地球上で最も強い力であり、それはどんな困難も耐え抜く不屈の力です」と語った。またJJは自分を信じ続け、信じることを声にし、闘い続け、「皆さん、愛を広めていきましょう」とメッセージを送った。

記者会見で「Wasted Love」が今回ポップ・ソングの初リリース曲となったことを受けて、新たなポップキャリアの今後について記者から尋ねられると、彼は数週間かけて作曲活動を行う予定で「EPも予定していて、できる限り早く新曲をリリースしたいと思います」と答えた。
3年連続でクィア(Queer)のアーティストが優勝者となったことを受けて、「本当に素晴らしいことです。すべての人が受け入れられ、平等であり、この素晴らしいLGBTQ+コミュニティを代表でき、私はとても幸せに思います。愛は力強く、私たちの権利のために闘い続けます」と答えた。

またオーストリアにとって3人目の優勝者になったことについてJJは「オーストリアでは『良いことは3つで起こる』と言います。この2人と同じ栄誉に浴することができ、本当に光栄です。そしてフィリピン人、フィリピン系アーティストとして初めて優勝できたことも光栄です」と喜びを語った。
優勝後JJは自身のInstagramで「皆さん、決して愛は報われないものではありません。どんなところであっても、私たちが広めることができる愛はたくさんあります」と述べ、憎しみが溢れる世の中で「だからこそ愛を広めましょう。愛は地球上で最も強い力です」と訴えた。
今回の優勝を受けてオーストリアのクリスティアン・シュトッカー首相は自身のXで「なんて素晴らしい快挙でしょう!#ESC2025 優勝、心よりお祝い申し上げます。JJ は今日、オーストリアの音楽史に新たな歴史を刻んだのです!」とJJにお祝いの言葉を送った。
準優勝

準優勝となったのは、🇮🇱イスラエル代表ユヴァル・ラファエル(Yuval Raphael / יובל רפאל)の愛と希望のバラード「New Day Will Rise」。2023年10月7日のハマス襲撃によるノヴァ音楽祭襲撃(レイム音楽祭虐殺事件)の生存者で、今年1月にユーロビジョン代表選抜を兼ねた歌オーディション番組『HaKokhav HaBa』(”次のスター”の意)で優勝を果たしたイスラエル中部テルアビブ郊外のラーナナ出身の24歳が、悲劇の後に希望を見出す壮大なバラードを感動的に歌い上げた。
英語、フランス語、ヘブライ語の3か国語で歌った「New Day Will Rise」は審査員票で昨年のイスラエル代表曲に続き低い評価となり第14位の60ポイント、一方視聴者票で圧倒的な支持を得て第1位の297ポイントを獲得し、合計得点357ポイントで準優勝となった。
イスラエルの参加をめぐっては2年連続で論争が巻き起こり、決勝数時間前にはバーゼル中心部で同国が大会に参加したことに抗議するパレスチナ支持派の抗議活動が行われ、デモ参加者と警察が短時間衝突した。警察は催涙ガスを使用し放水車を投入しデモ参加者が行進するのを阻止した。デモ参加者の中にはイスラエル国旗とアメリカ国旗を燃やす抗議行為があったと報じられている。開始前にスペインの公共放送RTVEは「人権が危機に瀕している時、沈黙という選択肢はない。パレスチナに平和と正義を」とパレスチナ支持のメッセージを伝えた。
また決勝でのユヴァル・ラファエルの「New Day Will Rise」のパフォーマンス終了後、男女が柵を乗り越えてステージに上がろうとし、2人はスタッフによって阻止されたが、1人がペイントを投げつけ、スタッフ1人にあたったが、スタッフは無事で負傷者はいなかった。男女は会場から連行され、警察に引き渡された。
TOP 5
「人生はスパゲッティのようなもの/成功するまでは大変だ」と歌う🇪🇪エストニア代表トミー・キャッシュ(Tommy Cash)は(イタリアから反感を買った)イタリア文化を風刺した強烈な歌詞と奇抜なダンスで魅せるカフェイン入りのディスコ・アンセム「Espresso Macchiato」で356ポイントを獲得し第3位。
優勝最有力候補となっていたサウナ愛と汗が迸る🇸🇪スウェーデン代表KAJのユーモアと蒸気たっぷり、陽気なサウナのアンセム「Bara bada bastu」が321ポイントで第4位となった。
続いてイタリアのルーチオ・コルシ(Lucio Corsi)が70年代グラムロック調の「Volevo essere un duro」で256ポイントを獲得し第5位となりトップ5に入った。

グランドファイナル

全世界推定1億6000万人以上の視聴者が視聴するなか4時間にわたったショーでは、開催国スイスのニモ(Nemo)が2024年大会優勝曲のオペラ・ポップ「The Code」を披露し幕を開け、グランドファイナルはその新曲「Unexplainable」で締めくくった。

インターバル・アクトでは、2024年大会で「Rim Tim Tagi Dim」で準優勝したクロアチア代表ベイビー・ラザニア(Baby Lasagna)と、2023年に「Cha Cha Cha」で準優勝したフィンランド代表カーリヤ(Käärijä)がそれぞれの曲をマッシュアップした激しいパフォーマンスで対決した後、二人がコラボした新曲「#eurodab」を披露した。
2026年ユーロビジョン・ソング・コンテストは今大会で優勝を果たしたオーストリアで開催される。
リザルト
| 出 | 結果 | 国 | アーティスト | 曲 | 合計得点 | 視聴者票 | 審査員票 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 18位 | 🇳🇴 ノルウェー | Kyle Alessandro | Lighter | 89 | 67 | 22 |
| 2 | 22位 | 🇱🇺 ルクセンブルク | Laura Thorn | La Poupée Monte Le Son | 47 | 24 | 23 |
| 3 | 🥉 3位 | 🇪🇪 エストニア | Tommy Cash | Espresso Macchiato | 356 | 258 | 98 |
| 4 | 🥈 準優勝 | 🇮🇱 イスラエル | Yuval Raphael | New Day Will Rise | 357 | 297 | 60 |
| 5 | 16位 | 🇱🇹 リトアニア | Katarsis | Tavo Akys | 96 | 62 | 34 |
| 6 | 24位 | 🇪🇸 スペイン | Melody | ESA DIVA | 37 | 10 | 27 |
| 7 | 9位 | 🇺🇦 ウクライナ | Ziferblat | Bird of Pray | 218 | 158 | 60 |
| 8 | 19位 | 🇬🇧 イギリス | Remember Monday | What The Hell Just Happened? | 88 | 0 | 88 |
| 9 | 🏆 優勝 | 🇦🇹 オーストリア | JJ | Wasted Love | 436 | 178 | 258 |
| 10 | 25位 | 🇮🇸 アイスランド | VÆB | RÓA | 33 | 33 | 0 |
| 11 | 13位 | 🇱🇻 ラトビア | Tautumeitas | Bur Man Laimi | 158 | 42 | 116 |
| 12 | 12位 | 🇳🇱 オランダ | Claude | C’est La Vie | 175 | 42 | 133 |
| 13 | 11位 | 🇫🇮 フィンランド | Erika Vikman | ICH KOMME | 196 | 108 | 88 |
| 14 | 5位 | 🇮🇹 イタリア | Lucio Corsi | Volevo Essere Un Duro | 256 | 97 | 159 |
| 15 | 14位 | 🇵🇱 ポーランド | Justyna Steczkowska | GAJA | 156 | 139 | 17 |
| 16 | 15位 | 🇩🇪 ドイツ | Abor & Tynna | Baller | 151 | 74 | 77 |
| 17 | 6位 | 🇬🇷 ギリシャ | Klavdia | Asteromáta | 231 | 126 | 105 |
| 18 | 20位 | 🇦🇲 アルメニア | PARG | SURVIVOR | 72 | 30 | 42 |
| 19 | 10位 | 🇨🇭 スイス | Zoë Më | Voyage | 214 | 0 | 214 |
| 20 | 17位 | 🇲🇹 マルタ | Miriana Conte | SERVING | 91 | 8 | 83 |
| 21 | 21位 | 🇵🇹 ポルトガル | NAPA | Deslocado | 50 | 13 | 37 |
| 22 | 23位 | 🇩🇰 デンマーク | Sissal | Hallucination | 47 | 2 | 45 |
| 23 | 4位 | 🇸🇪 スウェーデン | KAJ | Bara Bada Bastu | 321 | 195 | 126 |
| 24 | 7位 | 🇫🇷 フランス | Louane | maman | 230 | 50 | 180 |
| 25 | 26位 | 🇸🇲 サンマリノ | Gabry Ponte | Tutta L’Italia | 27 | 18 | 9 |
| 26 | 8位 | 🇦🇱 アルバニア | Shkodra Elektronike | Zjerm | 218 | 173 | 45 |
※出場順
※決勝は審査員票と視聴者票の合計得点で決せられる