第52回グラミー賞(2010年)


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米音楽界最高の栄誉ある賞である第52回グラミー賞(The 52nd Annual GRAMMY Awards、2010年)の授賞式が、1月31日(日本時間2月1日)に米ロサンゼルスで開催され、日本でもWOWOWで独占放送され各ニュースでも授賞結果が大きく話題となりましたが、せっかくですのでこのブログでも授賞結果を踏まえながら、第52回グラミー賞の3つの山場をメインに、写真や動画を通じて簡単に振り返ってみました。

1. R&B歌姫v.s.カントリー歌姫、勝負はいかに?!
R&B v.s. Country
The 52nd Annual GRAMMY Awards - Show

最多10部門でノミネートされていたビヨンセと、カントリーからは異例のグラミー賞8部門で自身初めてノミネートされていたテイラー・スウィフトの一騎打ちが大きく報道され話題を呼び「R&B歌姫v.s.カントリー歌姫」として注目を集めていた今回のグラミー賞。グラミー賞授賞式では、ビヨンセ(Beyoncé)が最優秀楽曲賞を含む6部門を受賞し、自身の女性アーティスト史上最多受賞タイ記録(第46回グラミー賞5部門、2004年)を塗り替え、女性アーティストとしては史上最多となるグラミー賞6冠を達成、一方テイラー・スウィフト(20歳)はグラミー賞の最高賞にあたる最優秀アルバム賞を含む4部門を受賞し、史上最年少のグラミー賞受賞となるなど、デッドヒートを展開しその各々の記録はグラミー賞に新たな歴史を刻んだ結果となったようです。

具体的に二人の獲得したグラミー賞は以下の通りです。

ビヨンセ(Beyoncé)

 

「最優秀楽曲賞」(Song Of The Year):「Single Ladies (Put A Ring On It)」(主要部門)
「最優秀女性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞」(Best Female Pop Vocal Performance):「Halo」
「最優秀女性R&B・ヴォーカル・パフォーマンス賞」(Best Female R&B Vocal Performance):「Single Ladies (Put A Ring On It)」
「最優秀トラディショナル・R&B・ヴォーカル・パフォーマンス賞」(Best Traditional R&B Vocal Performance):「At Last」
「最優秀R&B楽曲賞」(Best R&B Song):「Single Ladies (Put A Ring On It)」
「最優秀コンテンポラリーR&Bアルバム賞」(Best Contemporary R&B Album):『I Am… Sasha Fierce』
 
テイラー・スウィフト(Taylor Swift)

「最優秀アルバム賞」(Album Of The Year):『Fearless』(主要部門)
「最優秀女性カントリー・ヴォーカル・パフォーマンス賞」(Best Female Country Vocal Performance):「White Horse」
「最優秀カントリー楽曲賞」(Best Country Song):「White Horse」
「最優秀カントリーアルバム賞」(Best Country Album):『Fearless』

※太字になっているのは、グラミー賞主要部門(4部門)です。

The 52nd Annual GRAMMY Awards - Press Room

女性アーティスト史上最多受賞6冠を達成したビヨンセかグラミー賞の最高賞「最優秀アルバム賞」を授賞したテイラー・スウィフトか、授賞数ではビヨンセに軍配があがるものの、個人的には最優秀アルバム賞を授賞しカントリー部門からの史上最年少で異例の偉業を成し遂げたテイラー・スウィフトが今回のグラミー賞で最も輝いたアーティストだったのではないかとの印象が強く残りました。グラミー賞常連アーティストであるビヨンセの歌唱力にはテイラー・スウィフトも影を潜めてしまいますが、ジャンルを越えて音楽業界に旋風を巻き起こし人々の心に共鳴したテイラー・スウィフトの音楽性は歌唱力以上に音楽の原点を感じさせてくれます。

ちなみにこの動画はグラミー賞最高権威にあたる最優秀アルバム賞を授賞したテイラー・スウィフトのスピーチです。「(小声で)最優秀アルバム賞よっ。どうしよう…。(スピーチ)本当にありがとうございます。自分にとって、またネイサン・チャップマン、私のプロデューサー、このステージにいる全ての音楽家の方々にとって、このトロフィーをナッシュビルに持ち帰ることがどれだけ意味のあるものか皆さんにわかってくれると嬉しいです。(一時中断)やだ、どうしよう!(スピーチ再開)私の家族はリビングで叫んでいるわ!私の父と弟は今頃リビングルームで絶叫していると思うけど、、この賞は、今まで自分の人生で自分がしたいことをしていいって言ってくれたパパ、そしてママに捧げたいわ。ママ、あなたは私の親友だわ!これは私たちが80歳になったときの話になるけど、私たちは同じ話をうんざりするほど何度も何度も自分の孫にこの話を話すわ。何度も何度もね。2010年、グラミー賞で最優秀アルバム賞を授賞したという話を!本当に、本当に、ありがとうございます!」

2. マイケルさんへのトリビュート
Michael Jackson Grammy Tribute – EARTH SONG 3D
The 52nd Annual GRAMMY Awards - Show

また今回のグラミー賞授賞式では、昨年急死したスーパースター、マイケル・ジャクソンさんに特別功労賞が贈られたほか、ロンドンコンサートでその披露が予定されていた「アース・ソング」(Earth Song)を追悼企画としてその史上初となる3D映像をバックに、ポップ界の歌姫セリーヌ・ディオン(Celine Dion)、R&B界の人気歌手アッシャー(Usher)、ブラックミュージック界の大御所ジェニファー・ハドソン(Smokey Robinson)、カントリー界の歌姫キャリー・アンダーウッド(Carrie Underwood)らがジャンルの垣根を越えて共演し会場からも大きく拍手喝采が起こる等、その功績が大きく称えられ、かつてない特別なグラミー賞授賞式となったようです。

3. ハイチ救援にアンドレア・ボチェッリが魅せる!
“Bridge over Troubled Water” by Mary J. Blige, Andrea Bocelli & David Foster
The 52nd Annual GRAMMY Awards - Show

さらに先月12日にハイチで発生した大地震の救援のため、バラードの巨匠デイヴィッド・フォスター(David Foster)プロデュース・ピアノ伴奏のもと、世界的人気のイタリア人テノール歌手アンドレア・ボチェッリ(Andrea Bocelli)と米ヒップ・ホップ・ソウル界のクイーンのメアリー・J. ブライジ(Mary J. Blige)が「Bridge over Troubled Water」をデュエットで披露。このスタジオ音源とライブ音源が各々米iTunes等でシングルリリースされ、全て米赤十字社を通じてハイチ支援にあてられるとのことです。

ハイチ救援のためのチャリティソング、アルバムとしては他にも、リンキン・パーク主宰の非営利団体「Music for Relief」によるチャリティ・コンピレーション・アルバム『ダウンロード・トゥ・ドネイト』(Download to Donate for Haiti)、米俳優ジョージ・クルーニーらの呼び掛けによりMTVで日本時間1月23日(土)に世界同時に緊急生放送されたチャリティー番組『Hope for Haiti』でのアーティストのパフォーマンスを収録したチャリティ・アルバム『Hope for Haiti Now』、セリーヌ・ディオンら世界の名だたるアーティスト80人以上が集結しマイケル・ジャクソンさんらがアフリカ飢餓救済のため書いた曲を25年ぶりに甦らせ、バンクーバー冬季五輪開幕式で初披露される予定の「ウィ・アー・ザ・ワールド」(We Are The World)、『アメリカン・アイドル』の名物辛口審査員サイモン・カウェル(Simon Cowell)がプロデュースし、マライア・キャリー、ジョン・ボン・ジョヴィ、スーザン・ボイル等有名アーティストが集結した「Everybody Hurts」等、様々な楽曲、アルバムが話題となっていますが、音楽が国境を越えて世界を救う一つのきっかけになることは非常に感慨深いものがあります。

こうした点からも第52回グラミー賞は、改めて音楽の意味を再認識させ、歴史的にも重要な意味のあるグラミー賞となりましたが、個人的にはこうした世界的に注目する音楽業界最大の祭典は、中継でなくともダイジェスト版でもよいので是非有料チャンネルではなくNHKや民放等で放送してくれればと思う限りなのですが!日本では視聴率的には厳しいでしょうか?!ちなみにコチラの記事によると、今回の第52回グラミー賞の米CBSチャンネル視聴者数は約2590万人を記録し、過去6年間で最高の視聴率を記録したとのことです。

なお、今回のグラミー賞関連で他に個人的に気になったものを以下いくつかピックアップしてみました。

4. 意外とすごかったキャリー・アンダーウッド
Carrie Underwood

今若い世代に絶大な人気を誇るカントリー界の2トップ歌姫といえば、キャリー・アンダーウッドテイラー・スウィフトといえるのではないでしょうか。今回のグラミー賞ではテイラー・スウィフトの記録的な大躍進によりやや影を潜めた感のあるキャリー・アンダーウッド。しかし改めて振り返ってみると、今回のグラミー賞の対象期間内にリリースされたキャリー・アンダーウッドの作品は、2ndアルバム『Carnival Ride』からの4thシングル「Just a Dream」と、同アルバム「I Told You So」の全2作品で、今回のグラミー賞ではその両方がノミネートされ、内「I Told You So」が「最優秀カントリー・コラボレーション・ボーカル賞」を受賞するなど、その強い存在感を感じさせる結果となったようです。

第52回グラミー賞キャリー・アンダーウッド受賞作品

「最優秀カントリー・コラボレーション・ボーカル賞」(Best Country Collaboration With Vocals)
「I Told You So」by Carrie Underwood & Randy Travis

「I Told You So」は、80年代を代表する伝説的米カントリー・シンガー・ソングライターのランディ・トラヴィス(Randy Travis)が88年にグラミー賞「最優秀男性カントリー・ヴォーカル・パフォーマンス賞」を受賞した2ndアルバム『Always & Forever』からリリースされたシングル曲(米ビルボード「ホット・カントリーソング」部門第1位)で、これをキャリー・アンダーウッドがカバーした曲(米ビルボード「ホット・カントリーソング」部門第2位)。2ndアルバム『Carnival Ride』からの5thシングルで、2008年2月にリリースされましたが、グランド・オール・オプリ(Grand Ole Opry)でのパフォーマンスの際ランディ・トラヴィス本人がサプライズ登場し(下の動画です)、これをきっかけに3月にデュエットバージョンを再リリース。そして『アメリカン・アイドル』シーズン8でデュエットでのライブ・パフォーマンスが初公開され大きく話題となりました(上の動画です)。


 

この曲は、別れた恋人に想いを馳せる恋愛感情を、電話で伝えようとする自分の言葉とそれに対する相手の反応に思いをめぐらせながら描いた繊細で哀感漂う切ないバラード。

(バース1)
もし今夜あなたに電話して、愛しているってこの気持ちを伝えたら、
そして「あなたに戻ってきてほしい」って、
泣きながらも「ようやく自分の過ちに気づいた」って、
ずっと一人でいることに疲れてしまったって言ったのなら、

もし私があなたに私がずっと探し求めてきた人があなただったって気づいたのって言ったなら、
もしあなたと遠く離れることが死ぬほど辛すぎるってあなたに言ったなら、
あなたも私に愛してるって言ってくれて一緒に涙を流してくれますか。
それともただ笑いながらこう言うの?

(コーラス)
「そう言っただろ。そう言っただろ。
いつか君が戻ってきてもう一度自分を受け入れて欲しいって君が言うって
そう君に言ったのに、でも君は私から去らなければならなかった
今は新しい恋人がいるから、君は二度私の心を二つに裂くことはないよ」

キャリー・アンダーウッドならでは心に沁みる歌唱力でしっとりと聞かせてくれるので思わず感情移入してしまいます。

この曲のコーラスにもなっている”I told you so”は、語り手が恋人のセリフを想像している部分で、「そう言ったよね」と日本語訳できると思いますが、この”so”はその後の「いつか君が戻ってきてもう一度自分を受け入れて欲しいと君が言うって」(言ったよね)を意味します。その後に「今は新しい恋人がいるから。君は決して私を傷つけたりすることはないよ」と続き、やや傲慢にも聞こえるこの元恋人の語り手想像上のセリフがコーラスのメインとなっていますが、これは恋人と別れた際に何度も引き止められたのに自分が去ってしまったことに対する後悔と同時に、”but you had to go”との表現から、そうなるとわかっていても一緒にいることができなかった複雑な恋愛感情を見事に表現している部分ともいえます。

歌の内容からは話がそれますが、この曲では仮定法過去が頻繁に用いられ、相手の気持ちを想像する形で展開しており、英語の勉強にもとても役立ちそうな歌詞です。バース1の最初の段落ではif節を伴わない仮定法として有名な「Suppose (that) S V ~」で、2段落目は通常のifを使っているようです。久しぶりに文法を復習した気がします(笑)。

第52回グラミー賞キャリー・アンダーウッドノミネート作品
「最優秀女性カントリー・ボーカル・パフォーマンス賞」(Best Female Country Vocal Performance)
「Just A Dream」by Carrie Underwood


 

2007年に「最優秀新人賞」とデビュー・アルバム『Some Hearts』からの2ndシングル「Jesus, Take the Wheel」で「最優秀女性カントリー・ヴォーカル・パフォーマンス賞」を受賞し、2008年には同アルバム5thシングル「Before He Cheats」で「最優秀女性カントリー・ヴォーカル・パフォーマンス賞」、2009年には2ndアルバム『Carnival Ride』からの3thシングル「Last Name」で「最優秀女性カントリー・ヴォーカル・パフォーマンス賞」、そして今回のグラミー賞では先の受賞により、キャリー・アンダーウッドはデビュー以来グラミー賞を4年連続で受賞し続けていることになります。

躍動的で力強く安定した歌唱力、そして感情を揺さぶる表現力と多彩な楽曲で、テイラー・スウィフトとはまた違った魅力で世界を魅了し続けるキャリー・アンダーウッド、今後もカントリー界を牽引していく実力派歌姫としてその活躍に大きく期待したいと思います。

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