米音楽界で最も権威あるアワード、第66回グラミー賞(66th GRAMMY Awards)授賞式が現地時間2024年2月4日、トレバー・ノアの司会により米ラスベガスのクリプト・ドットコム・アリーナで華やかに行われ、テイラー・スウィフト、マイリー・サイラス、ビリー・アイリッシュ、ヴィクトリア・モネら女性アーティストが主要4部門を独占受賞するなど、女性アーティストの活躍が大きな注目を集めた。
この夜最後に発表された最優秀アルバム賞は、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)の10thアルバム『Midnights』が受賞。同賞をテイラー・スウィフトが受賞するのは今回で4度目となり、最優秀アルバム賞の史上最多受賞となった。これまでにテイラー・スウィフトは、2010年に『Fearless』、2016年に『1989』 、2021年に『Folklore』で最優秀アルバム賞を受賞。3度の最優秀アルバム賞を受賞しているフランク・シナトラ(Frank Sinatra)、スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)、ポール・サイモン(Paul Simon)の歴代最多記録を更新した。
セリーヌ・ディオン(Céline Dion)から最優秀アルバム賞の発表を受け、『Midnights』の共同音楽プロデューサー、ジャック・アントノ(Jack Antonoff)、収録曲「Snow on the Beach」でコラボしたラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)ら共作者とともに登壇し、トロフィーを授与されたテイラー・スウィフトは、「私の親友の一人であるだけでなく、一世代に一度のプロデューサーであるジャック・アントノと一緒に仕事ができ、大変幸せに思っています。そして私たちのエンジニアであるローラ・シスク(Laura Sisk)とセルバン・ゲネア(Serban Ghenea)、そしてサウンウェーブ(Sounwave)とラナ・デル・レイに感謝を言いたいです」。
「ラナ・デル・レイはあちらに隠れておりますが、これまでの彼女の労力がなければ、非常に多くの女性アーティストが今の場所には存在しなかったでしょうし、そのインスピレーションも得られなかっただろうと思います。 彼女は伝説的なアーティストであり、まさにレジェンドです。あなたと出会い、友人になれてとても幸せに思います」と、『Did You Know That There’s a Tunnel Under Ocean Blvd』でも同賞にノミネートされていたラナ・デル・レイに感謝と敬意の言葉を送った。
続けてテイラー・スウィフトは、「この瞬間が、人生で最高の瞬間だと言いたいけど、曲を書き上げる時や曲作りの糸口を見つけた時、またミュージックビデオのショットリストを作成している時や、ダンサーやバンドと一緒にリハーサルをしたり、公演のために東京に行く準備をしたりしている時に、私は同じ幸せを感じます」と喜びを語った。
「私にとって、賞は作品です。 唯一望むことは、これを続けられるようにすることです。 それがすごく好きで、とても幸せを感じます。 この賞に投票してくれた人たちも幸せだと思うと、信じられないほど感動します。 私が望むのは、これをやり続けることだけです。 だから私が大好きなことをする機会を与えてくれて本当にありがとう」と感謝の言葉で締めくくった。
スティッフパーソン症候群の闘病を発表し、プレゼンターとして今回サプライズ登場となったセリーヌ・ディオンはスタンディングオベーションで迎えられ、「ここに来られてうれしいです。心の底からそう思います」と最優秀アルバム賞を授与する前に述べ、「ここでグラミー賞に出席する幸運に恵まれた人たちは、音楽が私たちの人生と世界中の人々にもたらすその途方もない愛と喜びを、決して当然のことだと思ってはいけません」とこの日最後の賞のステージで述べた(GRAMMYs: Celine Dion Makes Surprise Appearance Amid Health Battle / YouTube)。
6部門でノミネートされていたテイラー・スウィフトはこの日、『Midnights』で最優秀アルバム賞と最優秀ホップ・ヴォーカル・アルバム賞の計2部門の受賞、キャリア累計14度の受賞となった。最優秀アルバム賞に先立ち、キャリア累計13度目の受賞となった最優秀ホップ・ヴォーカル・アルバム賞の受賞スピーチでテイラー・スウィフトは、11thアルバム『The Tortured Poets Department』を2024年4月19日にリリースすることを発表した。
登壇したテイラー・スウィフトは、「これは私にとって13度目のグラミー賞です。私のラッキー・ナンバーです」、「投票してくれたレコーディング・アカデミーのメンバーに感謝したいと思いますが、レコーディング・アカデミーの投票は、ファンの情熱を直接反映したものです」、「ですから、ここ2年間ずっと秘密にしていたとをお話しすることでファンの皆さんに感謝の気持ちを伝えたいです。それは、私の新しいアルバムが4月19日に発売されることです。そのタイトルは『The Tortured Poets Division』です」と明かした。
6部門でノミネートされたマイリー・サイラス(Miley Cyrus)は、世界中の人々から愛され昨年世界を席巻したポップ・ソング「Flowers」で、最優秀レコード賞と最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞の計2部門の受賞、この日自身初のグラミー賞受賞となった。
最優秀レコード賞の受賞スピーチでマイリー・サイラスは「皆さん、本当にありがとう」、「この賞は素晴らしいものですが、この賞で何も変わらないことを心から願っています、昨日の私の人生は素晴らしいものでしたから」。
「世界中の誰もがグラミー賞を受賞できるわけではありませんが、この世界の誰もが素晴らしいのです。 ですので、たとえそれが非常に重要なものであっても、これが重要であるとは考えないでください、でしょ?」マイリー・サイラスは関係者や家族らに感謝を述べ「誰も言い忘れていないと思います。 でも下着は、はき忘れたかも。じゃあね!」とスピーチを締めくくった。これまでマイリー・サイラスのグラミー賞受賞は一度もなく、ソロ・アーティストによるものとしてはノミネートも2015年の最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞(『Bangerz』)の1度のみだった。
7部門でノミネートされたヴィクトリア・モネ(Victoria Monét)は最優秀新人賞を受賞、またデビュー・アルバム『Jaguar II』で最優秀R&Bアルバム賞、最優秀エンジニア・アルバム(ノン・クラシック)賞を受賞し、自身初のグラミー賞受賞で計3部門の受賞。
6部門でノミネートされたビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)は、2023年公開映画『バービー』のために書き下ろしたサントラ「What Was I Made For?」で最優秀楽曲賞と最優秀ヴィジュアル・メディア曲賞を受賞し、計2部門の受賞となった。映画のオリジナル曲が最優秀楽曲賞を受賞するのは、第41回グラミー賞(1999年)で1997年公開映画『タイタニック』主題歌「My Heart Will Go On」(マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン)が最優秀楽曲賞(及び最優秀レコード賞、最優秀女性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞、最優秀映画/TV曲賞)を受賞して以来、25年ぶりとなる。
最多9部門でノミネートされ注目を集めていたR&Bスター、シザ(SZA)は主要部門を逃すも、「Snooze」で最優秀R&B曲賞を受賞、また2ndアルバム『SOS』で最優秀プログレッシブR&Bアルバム賞、フィービー・ブリジャーズ(Phoebe Bridgers)を迎えた『SOS』収録曲「Ghost in the Machine」で最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞を受賞し、計3部門で受賞した。
コロンビアのスーパースター、カロルG(Karol G)は4thアルバム『Mañana Será Bonito』で最優秀ラテン・アーバン・アルバム賞(Best Música Urbana Album)を受賞し、自身初のグラミー賞受賞を果たした。また南アフリカのシンガーソングライター、タイラ(Tyla)が世界的ヒット曲「Water」で今回新設された最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス賞を受賞し、自身初のグラミー賞受賞を果たした。
女性の最多受賞は7部門でノミネートされたフィービー・ブリジャーズ(Phoebe Bridgers)で、シザの「Ghost in the Machine」で最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞、フィービー・ブリジャーズがメンバーの米インディロック・バンド、ボーイジーニアス(boygenius)の「Not Strong Enough」で最優秀ロック・ソング賞及び最優秀ロック・パフォーマンス賞、ボーイジーニアスの3rdアルバム『The Record』で最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞の計4部門で受賞した。
男性アーティストの最多賞は、最優秀ラップ・アルバム賞含む3部門で全て受賞したラッパーのキラー・マイク(Killer Mike)だったが、手錠をかけられた状態でロサンゼルス市警の警察官らに連行されて会場を後にした。現地メディアの報道によると軽犯罪容疑によるものと報じられているが、詳細は明らかにされていない(【※追記】ロサンゼルス市警察は、会場内で暴行があったとして同氏を拘留したと発表した)。
ライブ・パフォーマンスは、今月15日にリリースされる予定のデュア・リパ(Dua Lipa)の「Training Season」でキックオフ、最新シングル「Houdini」を披露し、デュア・リパらしいエネルギッシュなパフォーマンスで幕を開けた。
カントリースター、ルーク・コムズ(Luke Combs)は、トレイシー・チャップマン(Tracy Chapman)のフォーク・ロック「Fast Car」(1988年)をカントリーで昨年カバーし、米ビルボード「Hot 100」で第2位、カントリーチャートを席巻するなど全米で大ヒットとなった「Fast Car」を本人トレイシー・チャップマンと披露。シザは最優秀レコード賞及び最優秀楽曲賞にノミネートされた「Kill Bill」を迫真のパフォーマンスで魅せ、ビリー・アイリッシュは「What Was I Made For?」、マイリー・サイラスは「Flowers」、オリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)は血の滴る「vampire」、豪華スターによる2023年のヒット曲で沸かせた。
初の試みとしてロックバンドのU2は、ラスベガスに昨年9月に誕生した世界最大の球体型アリーナ「Sphere」で新曲「Atomic City」を披露し、その映像がテレビ中継された。昨年亡くなったトニー・ベネット(Tony Bennett)、シネイド・オコナー(Sinead O’Connor)、クラレンス・アヴァン(Clarence Avant)、バート・バカラック(Burt Bacharach)、ティナ・ターナー(Tina Turner)らへの追悼のため、スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)、アニー・レノックス(Annie Lennox)、ウェンディ&リサ(Wendy & Lisa)、ジョン・バティステ(Jon Batiste)、アン・ネズビー(Ann Nesby)、コリー・ヘンリー(Cory Henry)、ジャム&ルイス(Jimmy Jam & Terry Lewis)、ファンテイジア(Fantasia)が心に触れる追悼パフォーマンスを行った。
ジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)は80歳で初めてグラミー賞でライブ・パフォーマンスを行い、ブランディ・カーライル(Brandi Carlile)らとともに1968年の名曲「青春の光と影」(Both Sides, Now)を披露、この日ジョニ・ミッチェルは『Joni Mitchell at Newport』で最優秀フォーク・アルバム賞を受賞した。ビリー・ジョエル(Billy Joel)は17年ぶりの新曲で今月リリースしたばかりの「Turn the Lights Back On」、そして1980年の「You May Be Right」でライブ・パフォーマンスの最後を飾った。
ライブ・パフォーマンス
アーティスト | 曲 |
---|---|
デュア・リパ / Dua Lipa | Training Season (Dance the Night) Houdini |
ルーク・コムズ / Luke Combs トレイシー・チャップマン / Tracy Chapman | Fast Car |
シザ / SZA | Snooze Kill Bill |
ビリー・アイリッシュ / Billie Eilish | What Was I Made For? |
マイリー・サイラス / Miley Cyrus | Flowers |
オリヴィア・ロドリゴ / Olivia Rodrigo | vampire |
U2 | Atomic City |
スティーヴィー・ワンダー / Stevie Wonder アニー・レノックス / Annie Lennox ウェンディ&リサ / Wendy & Lisa ジョン・バティステ / Jon Batiste アン・ネズビー / Ann Nesby コリー・ヘンリー / Cory Henry ジャム&ルイス / Jimmy Jam & Terry Lewis ファンテイジア / Fantasia | For Once in My Life The Best Is Yet to Come Nothing Compares 2 U Ain’t No Sunshine Lean on Me Optimistic Proud Mary |
ジョニ・ミッチェル / Joni Mitchell ブランディ・カーライル / Brandi Carlile | Both Sides, Now |
トラヴィス・スコット / Travis Scott プレイボーイ・カーティ / Playboi Carti | My Eyes I Know ? Fe!n |
バーナ・ボーイ / Burna Boy 21サヴェージ / 21 Savage ブランディ / Brandy | On Form City Boys Sittin’ on Top of the World |
ビリー・ジョエル / Billy Joel | Turn the Lights Back On You May Be Right |
【追記】日本時間2024年2月14日より、グラミー賞2024のライブ・パフォーマンス動画がYouTubeで順次公開を始めた。
主要4部門
1. 最優秀レコード賞
曲 | アーティスト | |
---|---|---|
Worship | ジョン・バティステ / Jon Batiste | |
Not Strong Enough | ボーイジーニアス / boygenius | |
🏆 受賞 | Flowers | マイリー・サイラス / Miley Cyrus |
What Was I Made For? 映画『バービー』より | ビリー・アイリッシュ / Billie Eilish | |
On My Mama | ヴィクトリア・モネ / Victoria Monét | |
vampire | オリヴィア・ロドリゴ / Olivia Rodrigo | |
Anti-Hero | テイラー・スウィフト / Taylor Swift | |
Kill Bill | シザ / SZA |
2. 最優秀アルバム賞
アルバム | アーティスト | |
---|---|---|
World Music Radio | ジョン・バティステ / Jon Batiste | |
the record | ボーイジーニアス / boygenius | |
Endless Summer Vacation | マイリー・サイラス / Miley Cyrus | |
Did You Know That There’s A Tunnel Under Ocean Blvd | ラナ・デル・レイ / Lana Del Rey | |
The Age Of Pleasure | ジャネール・モネイ / Janelle Monáe | |
GUTS | オリヴィア・ロドリゴ / Olivia Rodrigo | |
🏆 受賞 | Midnights | テイラー・スウィフト / Taylor Swift |
SOS | シザ / SZA |
3. 最優秀楽曲賞
曲 | アーティスト | |
---|---|---|
A&W | ラナ・デル・レイ / Lana Del Rey | |
Anti-Hero | テイラー・スウィフト / Taylor Swift | |
Butterfly | ジョン・バティステ / Jon Batiste | |
Dance The Night 映画『バービー』より | デュア・リパ / Dua Lipa | |
Flowers | マイリー・サイラス / Miley Cyrus | |
Kill Bill | シザ / SZA | |
vampire | オリヴィア・ロドリゴ / Olivia Rodrigo | |
🏆 受賞 | What Was I Made For? 映画『バービー』より | ビリー・アイリッシュ / Billie Eilish |
4. 最優秀新人賞
グレイシー・エイブラムス / Gracie Abrams | |
フレッド・アゲイン / FRED AGAIN.. | |
アイス・スパイス / Ice Spice | |
ジェリー・ロール / Jelly Roll | |
ココ・ジョーンズ / Coco Jones | |
ノア・カーン / Noah Kahan | |
🏆 受賞 | ヴィクトリア・モネ / Victoria Monét |
ザ・ウォー・アンド・トリーティ / The War And Treaty |